なんだか、ついこの間も書いたような記憶があるんですが、桜庭一樹さんの描く少女は、痛くて切ないなぁ・・・。
夜な夜な、六本木の廃校で開催される「ガールズファイト」。少女と女の中間のようなハタチ前後の女の子達が、自らの技能(ショーとしての格闘技)をつくして、闘う。彼女たちの迷いと、真剣さと、闘いは、この上もなく血みどろで美しい。
タイトルの『赤×ピンク』は、血や肉の色でもあり、少女趣味でファンシーな色でもあり、ミーコの記憶に塗り込められる色でもある。そして「×」は「対戦」の意味も含むんだと思う。ショーとしての見世物でありつつも、真摯に闘い、お互いの技を称え合い、凌ごうとし、高みを目指そうとする。そんな彼女たちの、強さと脆さが、とても痛かった。
(格闘のシーンの技とか出血とか失神とかは、奇妙に霞がかっていて感じられた)
ガールズファイトの出演者たちは、手錠をはめられ、芝居がかった様子で観客に自らをアピールする。指名されればその酒席に同席するが、彼女らにファイターとしてのキャラクター性を求める客たちは、キャバクラのような接客を求めない。
「‘まゆ十四歳‘の死体」
生命力の弱い、ふっ・・・と死んじゃいそうなまゆ(ホントは21歳)。強さより、困った顔・檻(リング)の中での助けを求めるような視線に人気がある。歪んだ感情。ケッコンマニアとケッコンすると言って退場。
「ミーコ、みんなのおもちゃ」
人に求められる役を演じてしまう、ミーコ。さまざまな職の果てにSMの女王様とガールズファイト選手の2足のわらじ。まゆに去られて慟哭し、皐月の部屋になだれ込む。翌日、新入り選手と試合をし、相手をマットに沈める。女王様を辞めることに。
「おかえりなさい、皐月」
女の体がこわい、皐月。「女」の匂いのぷんぷんとするミーコに突撃訪問され、招き入れたはいいが。「女はメンドクサイ」とばかりに流そうとし、出来ず、苦しむ。翌日ショーへ出勤すると、美しい女が新入りとして現れ、皐月を翻弄する。ミーコの「女王様さよならパーティー」で新入りを抱きしめ、過去との決着を決意。
3人の女の子が描かれる。それぞれ、痛みのある過去と現在を抱え、微妙に歪んでいる。その歪みすら力に変えて、彼女達は闘う。女であること、子供であること、ヒトであること。生きるのが辛いような、上手く世の中と折り合いのつけられないまま、現実感がなくなっている生活。そして、異空間である「ショーファイト」で生を実感している。
3つの章それぞれが、同じ出来事を各自の視線で追いつつ、少しずつ時間をずらしていく。まゆからミーコ、ミーコから皐月に渡されていく、バトン。この構成はスンバラシイ!さっすが、桜庭さんだな~。
あと、八角形(オクタゴン)の試合場(リング)が象徴する、彼女たちそれぞれにとっての「檻」の存在。まゆはそこから脱出し、ミーコは逆に深入りし、皐月は重大な決断をするけれど実行には至ってない。
「檻」で闘う女たちは、強くて脆くて、少し切なさが漂う。
脇キャラ好きな水無月・Rとしましては、「武史」に大笑いさせていただきましたよ!いいよね、こういうトホホなキャラ!彼氏にするにも息子にするにも、どうよ?!な感じですが、何というか愛があるよ、この子には!廃校の体育館を借りてる空手道場に通ってる高校生なんだけど、まゆに格闘の基本を教え、ミーコと師範代の関係(女王様と客)に苦悩し、皐月を姐さんと慕いつつエロガキとなじられる・・・。
困った場面からの退場は「NO~~~~?」(何で英語なんだ・・・?)である(笑)。
いっそ、武史視点でこの一連の出来事を、最終章としてで語って欲しかったぐらいだな。
いや、きっとすっごく優しくっていい子なんだと思います。
ただ・・・いかんせん、基本キャラが「トホホ」(笑)。
この物語、2003年にファミ通文庫で、出版されてるんですよね。つまり扱いは、まんまラノベ。
だけど、2008年1月、桜庭さんが直木賞を受賞するなり、「角川文庫」で出る。ラノベから「ブンガク」へ出世?!なんでしょうか(笑)。いやいや、この物語は、「ブンガク」扱いで全然OKですけどね。
(2008.07.24 読了)
この記事へのコメント
藍色
それぞれに抱える不安がリアルに描かれていました。
桜庭さんの空手体験が格闘場面の描写に繋がっているみたいでした。
ブンガク扱い大歓迎の角川文庫化でした。
エビノート
格闘シーンにはそれほど現実感は抱かなかったけれど、3人の女の子それぞれが抱えるものと闘う部分がリアルに迫ってきましたね。
水無月・R
3人の不安定な「今」が、ショーファイトという非現実世界でだけ安定するかのような、そんな風に感じました。
桜庭さんの空手黒帯が、ここで活きてくるんですねぇ~。闘う少女の美しさは、桜庭さんそのものなんだと思います♪
>エビノートさん。
いえいえ、そんな(^_^;)。
ただ「赤とピンク」といえばサンリオのマスコットのカラーだな~、でも待てよ、ショーファイトといえば血が飛び散って肉弾戦だよな・・・などと妄想を走らせた結果でして(笑)。
格闘シーンは痛くないけど、彼女たちの心の痛みの深さは、そして闘う相手の大きさや捕まえ所のなさは、読んでて切なくなりましたね。
空蝉
でもこういうかっこいい女と、ダメダメな依存型の女と・・・見てると思い出す作品が1つ。漫画なんですけど、『ハッピーエンド』byジョージ朝倉 です。是非是非オススメです。
水無月・R
うふ。光栄ですわ♪
やっぱり武史ですよね~(笑)。
え?トホホ属性なメガネ男子・・・・うわっ!
萌え全開になっちゃいますよ、私。多分、理性飛んじゃいますね(^_^;)。
『ハッピーエンド』、探してみます~。
香桑
ラノベにしておくにはもったいない本でしたね。大人向けで十分OKだと思いました。
構成もよかったですし、少女達の背景への重みの与え方は、さすが桜庭さん。
ミーコと師範代が、最後にどんな会話をしていたのか、知りたかったかも。
武史の悲壮な叫びと、それへのツッコミが大好きです。笑
水無月・R
TB確認しました。OKです~。
「闘う少女」たちの物語、痛いけれどなんとなく未来が開ける感じ、良かったですよね。
そして武史。・・・ああ、トホホな「NO~~~!」が、ステキすぎる(笑)。ああ、もう!可愛いなぁ!
june
武史はまさに水無月・Rさんのいうトホホ男子ですよね。驚くと英語になるとか笑いました。
水無月・R
桜庭さんの少女というのは、本当に「せつな痛い」んですよね・・・。
美しくて、汚れていて・・・混沌としたあの時期を切り取るのが、本当にうまい!
そして、トホホ男子もいいですね(笑)。一服の清涼剤(?!)と言えましょう♪