『テンペスト』上・若夏の巻に続いて、『テンペスト』下・花風の巻です。
絢爛豪華な歴史絵巻ですなぁ・・・。落日の輝きのいや増す、琉球王朝。男装の麗人が駆け抜ける政治舞台。美と教養の自尊心で、外交を行う海洋国家。煌びやかであやうい王朝の、崩落。
歴史絵巻と称しましたが、実は私、この物語を歴史小説ではなくファンタジーと受け取っています。というのも、琉球王国が、祭祀国家で、「神(龍)」の力が下りてくる人間が、物語を動かしているから。琉球王である首里天加那志、その姉妹であり神を宿して祭祀を司る聞得大君加那志。時に天候を操り、時に妖術を使うこの王朝は、私にとってファンタジーであった。
だからこそ、琉球王国そのものを主眼に読むことが出来ました。
八重山に流刑となった寧温(真鶴)は、熱病の末打ち捨てられ、八重山の巫女に救われ、女として生きることになる。その頃八重山には米国軍艦が砲撃を行っていた。王宮に急を告げたいと願うあまり、八重山に来た王宮役人の誘いに乗って王宮に上がるのだが、王宮の側室試験を受け、第1の側室・真美那の要望により第2側室となってしまった。
ペリーが琉球に来航、修好条約を結ぼうとするが、それを飲めば王国が蹂躙されるだけだと分かっていて、対応できない評定所。寧温がいれば対処してくれる、と呼び戻しの急使が八重山へ派遣され、王宮には「宦官の役人・寧温」と「あごむしられ(側室)・真鶴」が同時に存在しなくてはいけなくなる。
綱渡りな毎日。そして真鶴の懐妊、男児出産。出産祝いの席で暴かれた、真鶴=寧温の構図。女子禁制の王宮役人の座についていた真鶴に流刑の決が下るが、真美那の引き起こした火事騒ぎに乗って、真鶴と王子・明は失踪。
明は聡明に成長し、真鶴は寧温に扮してになって明の師となり、明を日本に吸収されてしまった琉球国第3王朝初代国王とする。ただし、王として君臨するわけではなく、琉球の民の心の中の王とならんと宣言する。その際、琉球の神々からその承認を得たのは、寧温を宿敵と恨む、元聞得大君加那志・真牛であった。
その後、真鶴は想い人・朝倉と再会し、やっと結ばれる。
怒涛の波乱万丈急転直下人生、側室と上級役人の一人二役・・・。
しかし、言っちゃってイイですかね?
・・・・琉球王宮の人々、ニブすぎだよ!そりゃ女が男装して上級役人になってるとは思わないだろうし、その役人が側室だなんて、とんでもない設定だけどさ。でも、顔見て分からん?声聴いて分からん?寧温と真鶴では、きっと心構えが違うから、顔つきも違うんだろうけどさ、でももとは同じ人間じゃん。誰も疑わず、気づいたのは兄・嗣勇だけってのは、相当ヒドイと思いますよ?!せめて気がつけ、首里天加那志よ。妻でしょ?もっとも信頼する役人でしょ?・・・ねぇ。
下巻で登場した、向家出身側室の真美那さん、とんでもないお嬢様ですな。美貌なうえに、才気煥発、科試合格も余裕な明晰な頭脳に「お嬢様爆弾」。・・・なかなかに強烈なキャラです。育ちの良さと無邪気さと計算を、絶妙~に融合した彼女の言動の数々には、度肝を抜かれましたね~。国宝級茶碗をあっさり割って後宮中をパニックに陥れたり、ペリーをお菓子と「真美那、泣いちゃう」で足止めして見せたり、真鶴にくっついて男装で表に出没して向家の親族に追い回されてみたり。王朝崩壊の後は、東京で侯爵となった王の側室として社交界の華となる。あのバイタリティーこそ琉球王朝500年の総決算な気がしますが。
上巻では、キャラ読みよりは琉球王国のことを主眼に置いて読んでましたが、やはり下巻でも王国の滅亡に一喜一憂し、列強や日本国のやり方に歯ぎしりをしてしまいました。冊封体制の崩壊、薩摩藩武力支配から日本国の一方的な国の解体。もちろん、琉球があのまま、一つの王国として存続するのは無理だったのだろうけど、他に方法はなかったのか。そんな気持ちになりましたね。
うう・・・なんだか全然支離滅裂ですね。
とにかく壮大で、いろんなエピソードが絡まり、人間も1人二役だったり、王宮内の人間関係(表も後宮も)複雑に絡み合ってて、それを読み説いて解説するなんて無理だ~!
ってことで、もうばらばらに感想を羅列してゆくことにする。
祭祀国家である琉球王国で、元・聞得大君の真牛の霊力の凄まじさ、王宮復帰・聞得大君への復帰への妄執には、すごいパワーがあったな~。神に携わる、至高の存在から、最下級庶民に落とされ、それでも再起を果たす。寧温への深い恨みを持ちつつも、第3王朝の王・明の聞得大君になってやり、神意に王位を認めさせた。真牛の妄執の強さと琉球を思う強さが一体となった感じがする。真牛が寧温達にしてきたことの酷さがそれで拭えるわけではないけど、それでも、沖縄県となってしまった琉球を霊力で守ると言う行動は、王族の祭祀を司る巫女としての矜持だったのだろうと思う。
兄・嗣勇は、王宮から追い落とされた後の酒浸りの末、「真鶴=寧温」を暴露してしまったけれど、最後の最後に真鶴親子を守るために戦ったその姿はカッコ良かったと思う。
願わくば、真鶴を守ることにもっと執心してくれて道を外さなかったらよかったのに・・・。
残念だったのは、儀間親雲上があまり活躍しなかったことかな~。トホホ属性大好きだから、私(笑)。「真鶴=寧温」が暴露されたシーンで、信じられないから酔っぱらってしまおうと、多嘉良と一緒に泡盛をたんまり飲むところは、さすがはトホホだ~(^_^;)と思って笑えたけど。
思戸が、上巻でのあがまの立場から後宮の一大勢力のかしら・勢頭部に異例の大出世を果たし、真鶴にはイジワルを、寧温には変わらぬ親情と忠誠を、と相変わらずの元気な活躍ぶりだったのも、印象的。表を動かしていたのは確かに男たちだけれど、後宮という世界を執り仕切り、「美と教養」の美の部分を担っていたのは女たちだったのだと、強く感じた。
後宮の喧嘩魔法陣、「王妃VS聞得大君VS国祖母VS国母VS勢頭部VSあごむしられVS王女」の凄まじさにはびっくり・・・。
でも、後宮という狭い世界で勢力争いに切磋琢磨しつつ裏から王宮を支える、そんな強さが感じられ、嫌悪感は全くありませんでしたね。まあ・・・私は絶対に参加できないと思うけど。最初の一撃で、後宮の隅っこまで吹っ飛ばされそうだ(笑)。
ああ・・・やっぱり纏まってないじゃん・・・(^_^;)。
すみません。ただ、とにかくこの物語はすごい、ということだけは大きな声で主張したいです。
ちょっとボリュームがあるので、余裕がある時の方がお勧めですが・・・。
(2008.10.04 読了)
この記事へのコメント
すずな
私も「気付けよー!」と思いました。というか、気付かないのが不自然すぎて・・・^^;
プロローグからファンタジーという気持ちで読んでたんですが、下巻ではファンタジー色がちょっと弱まってしまったようで、そこは残念でした。でも、最後まで夢中で読みました。面白かったですね!・・・私の感想はちょっと辛口気味なんですけどね^^;;;
水無月・R
ツッコミ処満載感が、もう別の意味でエンターテイメント化してたような(笑)。
でも、すごくスピード感のある、惹き込まれる物語でしたよね~。
じゅずじ
たしかに、壮大な絵巻でした。
小さな国が生き延びる道、苦難の連続の中でも国を愛する心、信念がとてもよく表現されていたように思えました。
とてもよい物語でした。
水無月・R
琉球王国の優雅な中にある底力が、とても印象的でしたね。
いい物語でした。ちょっと疲れましたが(笑)。
エビノート
ツッコミどころには同感。何で気づかなかったんでしょうね~それで裏切られたとか言っちゃうんだから。もう!って感じです。
真美那がいい味出していて、楽しかったです。
水無月・R
怒涛の物語展開、そしてなぜ誰も気がつかないんだ~というツッコミ処、とにかく凄かったですね♪
やっぱり女性陣が強い物語は面白いな~って、思いますね。