恋愛話をする個室のある『カフェ・コッペリア』。話を聞いてくれるのは開発中のAI(人工知能)あるいはAIを装った生身の人間。AIの学習機能向上実験のためのこの店で、AIはどのように進化してゆくのだろうか・・・。
「せつなさの名手」と謳われる菅浩江さんですが、初読みです。そしてそんな通称を科せられる作家さんのマジックに惑わされ、心地よく世界を彷徨いました。
「カフェ・コッペリア」
表題作。カフェ・コッペリアの女性スタッフは、AIなのか・・・?AIの学習機能と人間らしさの行く末は。
「モモコの日記」
宇宙開発のための閉鎖施設実験に参加したモモコを見守るカウンセラー。モモコはそつなく、役割をこなすが。
「リリランラビラン」
失恋の勢いで、珍しいぺットのブリーダーになった優梨亜。彼女に迫る影。
「エクステ効果」
エクステの固定液は、罪の味?美しくなることで自信を持って。
「言葉のない海」
試験管ベビーがありふれる世の中で、出会った男女。あまりにもぴたりと寄り添うお互いの感情。
「笑い袋」
機械に頼っても、家族のつながりはやはり、暖かい。
「千鳥の道行」
日本舞踊の大家・月城勘堂が怪我を負ったわけは。表の理由と裏の理由。
リリラン・ラビラン、欲しいです。
ふくふくとした毛玉につぶらな瞳・・・好みの香りづけをして、常に身近に置ける癒しのアロマペット。癒されそうだ~。しっかり懐いてくれるみたいだし。
意外な展開にちょっと安心。
「モモコの日記」は、なんと言うかラストが切なかったなぁ。まだ11歳の少女が「役割」をこなすことを日常としているなんて。手を差し伸べたいと思っているのに、踏み出すことができなかったカウンセラーが、最後に気がついてしまったこと。モモコも、カウンセラー・田辺も、とても切なかった。
「笑い袋」は、お互いを思ってるのに、言葉足らずの家族が、優しい告白をし合う終わりが良かった。とても温かいものを感じた。機械を通じて、想いをより優しく繋げる家族。その根底には、相手を想う深い気持ちがあって、暖かくて美しい。成太郎の口癖「幸せだなあ」が寂しさを紛らわすものではなくなり、本当に幸せになるその瞬間が、すれ違いがあったから余計に、暖かく嬉しかった。
「言葉のない海」、ひしひしと胸に迫る、恵と歓喜の感情シンクロ。お互いがただ一つになるための存在なのだと、言葉にしなくても分かるその理由が、人工授精の作用だったとは。二人が一緒に生きてゆくことは出来るのか。母なる海を眺めながら、2人の出す結果は・・・。個人的には、2人で生きてゆくことが出来れば良いと思う。そんな相手は、ほぼ見つからないのだから。遺伝子上、どんな禁忌があるのかよく分からないせいもあるのかもしれないけど。
表紙の絵も良いです。淡いグリーンを基調に、美しい人形コッペリアが虚ろに目を開いている表紙と、瞑目している裏表紙。どちらも血の通った人のような雰囲気はなく、ただひたすら儚い感じがする。
あのコッペリアは、美しいけれど、心がない。どんなに発達したAIを乗せても。いや、そうであって欲しい。美しいものは儚く、硬質で、無理に触れたら壊れてしまう。それぐらいがいいと思うのだ。
語り手・カナタはコッペリアに、学習機能が向上したAI・スワニルダを搭載して欲しいと願うけれど。
確かに、感情をもち、アイデンティティを模索して自分の存在性の虚実に悩んでいたスワニルダがAIなら、機械は一歩人に近づくのだろうけど。それでも、私の中では機械と人の間に一線を引いて欲しい。その一線があるからこそ、人は人たり得るのではないかと・・・願っているからだ。
(2009.01.19 読了)
この記事へのコメント
エビノート
未来のあるかもしれない設定でしたが、恋に悩んだり、家族関係で悩んだり、やっぱり人の心には変わりはないんだなぁと思いました。
水無月・R
どの物語も、ちょっと悲しい部分がありながら、美しかったですね。
リリランラビラン・・・高いんだろうなぁ~(笑)。
空蝉
菅さん読むなら『雨の檻』あと『AI』オススメです。なきました、ホントに。
水無月・R
なるほど、空蝉さんお勧め作家さんなんですネ!納得です♪
是非『雨の檻』『AI』もリストに入れなくては!