『物いふ小箱』/森銃三 ○

なんとも上品な、怪奇譚である。いやぁ~最近、ぞぞ~っとくる系統とか粘りつくような怖ろしさのの怪談ものを読むことが多かったので、なんと言うか、怪奇譚なのにすごく優しさを感じる。微笑ましいというとなんだか違うのだけど、非常に安心して読める感じ。
本の奥付を見たら「1988年第一刷発行」になってました。なるほどです。

さて、なんでこんなに古い本を選んだか、というと桜庭一樹さんが『桜庭一樹読書日記』で熱心に素晴らしさを説いていたからなんですね。
実際読んでみてホントに、何とも美しいというか、なんだろう、あくどさのない怪奇譚がこんなにあるんだ・・・と感心するのですよ。
著者森銃三(もりせんぞう)さんのことは、全く知りませんでした。ネットで調べたら、博学な学者さんであり、様々な著作をもつ文筆家だったようですね。
本作、『物いふ小箱』も、日本だけでなく中国にも手を広げて、怪異譚を集めています。

その怪異譚が、なんと言うか、ほんのりと優しい。
読んでいて、予定調和のように、良いところへ落ち着く。だが、飽きない。非常に品の良い、良質な物語を読んで、心が洗われたような気がします。
日本ものを第一部・24篇、中国ものを第二部・16篇、さらさらと書き連ねてあります。
さらりと読め、読後感がなんだか微笑ましい。

私が気に入ったのは、若い奥さまが患って寝込んでいる間に、気持ちだけが物見台へ行ったのを見てしまった女中の物語の「物見」。旦那様はもうすぐお帰りになりますよと奥様に告げ、誰にも言わず日を過ごすうちに、本当に旦那様が帰ってくる。なんだか暖かいな、と思うのである。

それから「猫」。家じゅうで怪異が起きるが、「普段と変わりがないのは猫だけ」と言った途端、猫がまさに猫撫で声で「わざとしないんですよ」と言ったという・・・。なんとも微笑ましい話ではないか。いや、猫が喋る時点で既におかしいんだけど、犬が頭巾かぶって踊ったり、皿がひとりでカチャカチャ鳴ってたりしてるのに、猫だけが捻くれて「わざとしない」とは。

他にも、「向かいの店に盗みに入るから見逃してくれ」と言われて、そちらに気を取られてる間に、自分の店に居空きに入られてしまう茶屋の主人の話や、幽霊役をしている男を見た医者の話など、クスリと笑える話も。
あっさりとした短編が続々と出てきて、面白かったです。

(2009.06.23 読了)

新編 物いう小箱 (講談社文芸文庫)
講談社
森 銑三


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(ちなみに、M市図書館にあったのは、旧版の単行本でした)

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