部屋の片隅に、骸骨が立っている。主人公・真千子はそれを、15年前に別れ、そののち死んだ、自分の元恋人の骨なのだと思っている。
骨は何もせず、ただ立っているだけ。新しい男を連れ込んで、明かりをつけたまま関係しても、それでもなお。
第3回『幽』怪談文学賞短編部門大賞を受賞した、岡部えつさんの『枯骨の恋』は、そんな乾いたおぞましさを漂わせる、短編集である。
表題「枯骨の恋」で、ずっと明かりをつけたまま新しい男と関係していたのを暗闇に変えた時、携帯ディスプレイの明かりに浮かんだ相手の男は、元恋人の痩せさらばえた姿に入れ替わっていた。
これを、何と評したらいいのか分からない。執念?だけど、何があっても引っ越しをしてもずっと付いてくるだけだった骨が、暗闇にしただけで、骨ではなく実体となって真千子を襲ってきたのはなぜだろう。骨は、真千子の妄想だったということなのだろうか。
「親指地蔵」「翼を下さい」「GMS」「棘の道」「アブレバチ」「メモリイ」と、短編がつづられてゆく。全く違ったシチュエーションで、それぞれが違う展開なのだけど、共通するのは、「怖い」というより「おぞましい」という感情を引き起こすということだろう。
同年代、あるいは少しだけ年上の女たちが主人公だからだろうか、その実情はやけにリアルで、一つ間違えばわが身、そう感じてしまって怖ろしいよりもおぞましい。
微妙に「格」を競い合ってきた女たちの末路、二代続けて男を始末して家を守り続ける母娘、子を残すことに固執し狂った女、友人だった虐待母の死を軽く語る女と聞く女にかかった呪い、憐れみと小狡い自己防衛が読んだ自殺とその顛末。
あえて言えば「メモリイ」ぐらいは、少し救いがあっただろうか。
ジャパニーズ・ホラーというと、私的には恒川光太郎さんを連想するので、どうもこの作品をそこに分類するのに納得がいかない。では、どう分類するかというと、何とも言えないのだけど・・・。
緊張感なく、割とすら~っと読めました。
(2009.08.09 読了)
この記事へのコメント
空蝉
水無月・R
「アブレバチ」は・・・結構怨念ものでしたねぇ。
現代ホラーの進化、私としては是非に昏い方向(静々と迫ってくる怖さ)にお願いしたいです。