『水底の仮面』 ヴェヌスの秘録〈1〉 /タニス・リー ○

やっぱり、耽美なダークファンタジーはいいなぁ~・・・。
水の都ヴェヌスで繰り広げられる、隠微で仄昏い、因縁と策略。
タニス・リーさんの描く、美しくも妖しい世界。
濁った運河、仮面や衣装の青、美女のサファイアの瞳・・・、さまざまな青が氾濫し、闇に飲み込まれてゆく。そこから浮かび上がってくるものとは。

錬金術師・シャーキンの依頼で、水死体を探す青年・フリアン。彼は裕福な商人の息子であったが、今は家を出奔して生活している。
干潟に守られ、張り巡らされた運河をの中に浮かぶ都市・ヴェヌスでは、謝肉祭の期間は仮面をつけることが義務付けられ、顔を晒していると不心得者として、迫害される。
『水底の仮面』は、フリアンがその謝肉祭の期間中に、見事な出来栄えの、しかし何か不吉な仮面を運河から拾い上げたことから、陰惨な物語を繰り広げ始める。

魔術、錬金術、呪術・・・。不可解な現象と、血生臭い追跡者。美しき青い蝶の仮面の貴婦人と目が合った瞬間、その視線にとらわれたフリアンは、彼女を追い求めて危険を承知で、彼女を探し出す。
仮面を外した彼女・エウリュディケの顔は、完璧な美貌を保ったまま石化していた。〈石の顔〉と呼ばれる奇病で、顔の筋肉を動かすことができないのだという。彼女はしゃべることも、食べることも、瞬きすることすらできず、しかしながらそうであるが故に、美しさを歪めることもない。
エウリュディケの美しさ、気高さと、愛を求める心細い様子に心奪われたフリアンは、彼女の父で仮面職人ギルドの有力者であるレピドゥスの陰謀に巻き込まれる。
錬金術師シャーキンの助けで、その陰謀をつぶし、脱出したフリアンは、命をかけてフリアンを救ったエウリュディケと生きていることの喜びを実感するのであった。

いやぁ・・・あらすじを書こうとすると、物語の魅力が全く失われてしまう。
陰謀と裏切り、呪術と因縁、悪徳と背徳と退廃・・・真っ暗な闇ではなく、暗闇の中に蝋燭の明かりが心許なげに揺れるような、そんな暗鬱な世界。灯りが揺れるので、影は形を変え、人を襲う怪物にもたぶらかす妖魔にもなる・・・。
そんな感じがするのですよね、ダークファンタジーって。

本作『水底の仮面』は「ヴェヌスの秘録」という全4巻のシリーズの第一巻なのですが、これからどんな展開になるのかしらん・・。
ダークファンタジーながら、この巻ではハッピーエンド。かなり意外な感じがしますね。ダークファンタジーなら悲恋、というわけじゃないのですが、こんなにはっきりハッピーになってしまうというのも・・・。

(2009.10.26 読了)

水底の仮面―ヴェヌスの秘録〈1〉 (ヴェヌスの秘録 1)
産業編集センター
タニス リー

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