『炎の聖少女』 ヴェヌスの秘録〈2〉 /タニス・リー ○

『水底の仮面』の水上都市〈ヴェヌス〉が、〈ヴェ・ネラ〉であった時代。
教会内、そして都での勢力争いと、外敵の来襲に揺れる水上都市に、神に授けられし炎の力を持った少女・ヴォルパが現れる。その『炎の聖少女』は、自分を見出してくれた大司教・ダニエリュスに請われるがままに、その力を使って都を救う。
猥雑ではあるがまだ退廃に至らぬ都と、そこに渦巻く人々の生き様を描く、タニス・リーさんの『ヴェヌスの秘録』シリーズ2巻目である。

聖地を取り戻すべく十字軍が異教の地・ユルネイアを侵攻したが果たせず、3百年の時が流れた。そのユルネイアが1千を超える軍船を持って、ヴェ・ネラに攻め寄せるという噂が流れ、民衆は動揺し、教会内の強硬派「神の子羊評議会」は民衆への取り締まりを不当なまでに強化する。
奴隷の娘であったヴォルパ(狐)は、危機を経験し〈炎を操る能力〉を身につける。その力を聖なるものとして庇護下においたダニエリュスにより、ヴォルパはベアティフィカという名を与えられ、聖歌と祈りの教育を受ける。
ダニエリュスの配下である〈神の戦士〉クリスチアーノと惹かれあうベアティフィカ。
ユルネイアに包囲された都を、クリスチアーノを守るため、ベアティフィカはユルネイアの軍船に炎の力を発揮する。
その力を異端と見做した評議会により宗教裁判を受けたベアティフィカは、火炙りの刑に処せられるが、ダニエリュスの準備のおかげでその場を脱出し、名を変え、クリスチアーノと婚姻。

今作は、あまりダークファンタジーではなく、普通にファンタジーでしたね。異なる世界からもたらされ、秘かに受け継がれてきた炎の能力。その力を持つ娘と神のために戦う戦士の、純粋なる愛情・神への崇拝を、外敵の襲来・内部の勢力争いが翻弄する。神を愛する以上に人を愛することで、力を最大限に発揮し、能力を燃え尽かせた娘。彼女の力を利用し、都や民を救った大司教。大司教のめざす信仰と平穏な世界は、未だ得られていないけれど、聖女と戦士は農夫婦に姿を変え穏やかな生活を送っている。

あれですよね、ベアティフィカはジャンヌ・ダルクのイメージとはちょっと違いますね。戦いを率いる女神、というよりは戦った者を癒す聖女であり、最後には神に与えられた力を行使して民を守る女神。
力を酷使して失ったのち、宗教裁判にかけられる辺りは、似ていなくもないですが。
力を持ってしまったが故に利用されるけど、のちに平穏で、神を愛し愛する者との生活を得るという、穏やかな終末を得ることが出来たから。

そうそう、最後に出てきた聖女の心臓(実は犬の心臓)を収めた黄金の小箱、『水底の仮面』に出てきませんでしたっけ?ちょっと記憶があやふやなんですが、錬金術師・シャーキンか、主人公・フリアンがそういう小箱(解錠できない?)を所有していたような気がします。

しかし、なんだろう・・・私的には、物足りないです・・・。なんというか、やっぱり隠微で耽美で、暗闇に揺らめくロウソクの灯りのような、心許ない現実と幻想世界、みたいなのがいいなぁ~。
ハッピーエンドなのもねぇ・・・。ハッピーエンドでも、もっとダークなのが好みと言うか・・・。(←わがまま)
ちょっと、評価が難しいです・・・(^_^;)。

(2009.11.23 読了)

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ヴェヌスの秘録 著者:タニス・リー/柿沼瑛子出版社:産業編集センターサイズ:単行本ページ数:469p


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