怖い、怖い・・・。
何が怖いって、ラストシーンが怖い。
姉・コンスタンスと「2人きりで暮らせることがとっても幸せ」だとメアリー・キャサリンは言うのだ。
全てとの交流を断って。ブドウのつるに覆われた洋館で。幸せなのだ、と。
シャーリィ・ジャクスンさんの描く狂気の世界。でも、狂っているのは、誰なの?
村の裕福な一家を襲った毒殺事件。容疑者であった長女(裁判では無罪判決)と、事件当時夕食抜きで現場にいなかった次女が『ずっとお城で暮らしてる』物語。
村で忌避される娘・メアリー・キャサリン・ブラックウッド。買い物で村を訪れれば、過去の毒殺事件を揶揄する歌が歌われ、村人たちからの遠慮ない視線や聞えよがしの悪口にさらされる。
~~お茶でもいかがとコニーの誘い 毒入りなのねとメリキャット~~ (本文より引用)
コンスタンスは、家の敷地から出られない。メアリー・キャサリンは姉の使いで、買い物と図書館へ行くたびに、村人からあてこすりを言われている。
キャサリンにとって、家の敷地内にいるときだけが、心休まるとき。
毒殺事件の犯人と目されたコンスタンスが台所を預かり、キャサリンを調理に殆ど関わらせないという、おかしな習慣。毒殺事件の生き残りである伯父は、偏執的に「事件の本を書くのだ」とメモを取り、書類をいつもいじりまわしている。時々お茶に訪れる友人は、ブラックウッド家の食べ物は一切口にしない。ティータイムというよりは、ブラックウッド家を偵察に来ているかのよう。メアリー・キャサリンは、敷地内に結界を張るため、色々なモノを埋めている。
最初は、村人たちにブラックウッド家がさげすまれていることを不当に感じ、憤りを覚えていたのだが、読み進めるうちに、ブラックウッド家に漂い、段々濃度を濃くしてゆく狂気の圧倒的な奔流に、押し流されてしまった。
事件当時12歳だったメアリー・キャサリンの精神は、6年たった今も、子供のまま。そして、それを許容するコンスタンスの異様さ。外界から閉ざされているブラックウッド家。どこかが狂っている、空気。
絶縁状態だった従兄・チャールズがブラックウッド邸に現れたことから、狂気はいや増していく。チャールズに籠絡されたかのようなコンスタンス。チャールズを追い出すべく、自分なりの呪術の限りを尽くすメアリ・キャサリン。
そして、訪れた火事。ブラックウッド邸の2階部分は焼け落ち、火事場跡に侵入した村人たちは破壊の限りを尽くす。
その晩、「あいつらの食事に毒を混ぜてやる」といったメアリー・キャサリンに、コンスタンスは「この前みたいに?」と言う。初めて、あの事件について。
そして、焼け残った家に隠れ住む姉妹。罪悪感に駆られた村人たちは、家の前に食べ物を持ってきては、匿名の謝罪をしてゆく。5か月も借りっぱなしの図書館の本。姉妹二人だけの、完全に閉ざされた世界。今は夏、日々は暖かい。
姉妹は言う。「あたしたち、とっても幸せ」と。
メアリー・キャサリンの狂気、それを受容できるコンスタンスの狂気。崩れかけた洋館に籠って暮らし、他者を締め出した2人。殺人事件を忌み嫌い、火事になった家に踏み込んで荒らし、後になって「コニーとメリキャットの呪い」を恐れるかのように、捧げものを持ってくる村人。誰が、一番狂っているのだろうか。
何より怖ろしい、と思ったラストシーンに私は、姉妹2人だけで完結する世界の崩壊予兆を感じた。
2人だけで「ずっとお城に暮らしてる」ことは、彼女らにとって、至高の幸せなのだ。
だが、彼女らの住んでいる「お城」は2階部分がなく、夏は暮せても、冬をしのぐことは叶わないだろう。また、村人たちの彼女らへの捧げ物も、いつ尽きるともしれない。
「お城」は、息詰まる崩壊の予感を孕みつつ、姉妹は幸福の絶頂にある。
それが、一番怖かった。
(2009.12.11 読了)
この記事へのコメント
苗坊
怖かったですね~。
背筋が凍るようなぞくっとした怖さを感じました。
2人にとっては、あの結末が良かったのでしょうか。
それでいいと2人が思うところが、私も怖かったです。
この小説に出てくる世界も、人々もみんな狂っている恐怖を感じました。
でも、読む手は止まらなくて。はまりました。
水無月・R
狂っているが故の、静かで平穏な日々。
2人にとっては、いつまでも『ずっとお城で暮らしてる』という童話のような状態が続くことが、幸せ。外と隔絶されていていいのだ、それこそが幸せ。
・・・怖ろしいですよね。
村人たちも酷いけれど、自分の中にも異質を弾き出したがる部分はなくもない・・・そんな狂気の芽に改めて気付かされてしまったことが怖ろしかったです。
虚ろな美しさのある物語でしたね。