京都のお祭り「宵山」の日、幼い姉妹はそれぞれの冒険をし、おバカな「偽祇園祭」は計画&実行され、ある人はひたすら宵山の日を繰り返し、別世界に「宵山様」が存在し・・・。
森見登美彦さんが描く、不思議なファンタジーワールドは自在に姿を変え、伸び縮みし、何かを飲み込んだり、放出したりしている。
うわぁ~、世界の外側にあるはずの『宵山万華鏡』を覗いてみたら、こんな世界が広がっていて、いつの間にか自分も万華鏡の中にとらえられてしまっていた・・・てことになりそうだ。
2つずつ組になる物語が3組、それぞれにリンクしながら、いつ間にかズレている。あ~、この感じは同じモリミーの『きつねのはなし』に似てるような気がする・・・。そしてまた、〈京都〉から弾かれた疎外感が、ちょっと。ううう、〈京都〉ってホントなんていうか、いけずさんだなぁ(泣)。
いつもの「モリミーが大好きだぁ!」という手放しの、萌え全開ってわけにはいかないのが、本作。
「宵山姉妹」
バレエ教室の帰り、宵山で姉とはぐれた妹は、赤い浴衣を着た女の子達と一緒に宵山を巡る。
「宵山金魚」
「超金魚」を育て上げた友人・乙川に宵山を案内してもらうはずが、祇園祭司令部に捕まって連れまわされる。
「宵山劇場」
偽祇園祭。あふれかえる妄想と、それを実現させる為に東奔西走する若者たち。
「宵山回廊」
十五年前、従妹は宵山で失踪した。叔父は今年の宵山を何度も繰り返しており、そこで失踪した時の姿のままの娘を見たという。
「宵山迷宮」
骨董屋から探して返してほしいといわれている水晶玉、繰り返す宵山。
「宵山万華鏡」
バレエ教室帰りの姉妹の姉の方は、大坊主や舞妓と共に宵山を巡り歩き、「宵山様」にの元に辿り着く。妹が「ひかれ」そうになるのを、懸命に取り戻す。
私は、モリミーの作品によく出てくる〈腐れ大学生〉が、好きである。阿呆で意味のないことに一生懸命で、トホホなあの人たちが出てくれば、諸手を挙げて大喜びしてしまう。
「宵山金魚」と「宵山劇場」で、その壮大に阿呆な妄想の実現化に惚れぼれし、山田川さんの妄想力には鼻血が出そうになりました(笑)。そして、山田川さんのあふれる妄想を実現化する為に、意地になって己の調達力に無駄に加速をかける小長井のトホホ加減
がもう、スンバラシく萌え♪

ええ、本作で水無月・Rの心をとらえたのは、小長井ですわ!トホホなのに、物資調達・妄想実現力に長け、山田川さんや丸尾ともやりあえる弁舌(ただしいつも負ける)、白塗り高藪さんを慰める心優しさも持っていて、なかなかに・・・いい奴じゃありませんか。
しかし、奥州斎川孫太郎虫・・・。蜻蛉の仲間で、漢方薬として子供の疳の虫に効く・・・って、ウィキペディアで調べちゃったよ(^_^;)。酒の肴として黒焼きにした食べることもあるそうですが・・・ちょっと勘弁してほしいです。いや、ありなんだけど・・・個人的に、嫌です。
それをバリバリ食べさせられた高藪さんて、哀れだ・・・。
トホホ炸裂
、愛と笑いとツッコミどころ満載な「宵山金魚」「宵山劇場」から一転して、宵山の1日を繰り返す「宵山回廊」と「宵山迷宮」は、やや色合いの違う、センチメタルなものになっていました。

同じ1日を繰り返し続ける、って言うと、恒川光太郎さんの 『秋の牢獄』を思い出しますね。
過去に見失った娘を、繰り返す宵山の万華鏡の先に見る叔父、赤い浴衣の少女達の中に従妹を見出し、あの時と同じように「私は行かない」と告げてしまった千鶴。叔父はその後を追って行ってしまった。
同じく宵山の1日を繰り返す、画廊主の柳さん。何度も「水晶玉を探して欲しい」と告げてくる杵柄商会の乙川という青年は、「宵山金魚」の乙川のはずなのだけど、なんだか不穏な感じ。「金魚」では、お気楽で意味もない騙しに熱中する、子供のような人なのに、「迷宮」では薄気味の悪い男になっている。コレは外側の世界から万華鏡で見る沢山の世界の中の、別の世界の別の男なのかしらん・・・。
「宵山万華鏡」では、姉妹の姉の方が「金魚」と「劇場」の世界に入り込んだのかと思いきや、どうも別世界というか「繰り返す宵山」の総本山(?!)の方に迷い込んだようである。
おかしな世界を巡り巡って、宵山様に会い、怖ろしいことに気付き、達磨を万華鏡にぶち当てるという機転を利かせて、脱出。更に赤い浴衣の子供たちから妹を奪還し、一緒に宵山から駆け出すのだ。
6つの短篇が、それぞれ対立したり干渉したり、融合したりズレたりしながら、〈京都〉の宵山を彩る。面白いというよりは、幻想的で、不思議な物語だった。
失われたもの、取り戻したもの。迷い込んで、出て行った姉妹。偽の宵山様と、本物の宵山様。
どれもが、幻視で、どれもが、現実。
ただな~、やっぱり私は、「愛と笑いとツッコミ処満載」なモリミーの方が好きだなぁ。あの突き抜けた笑いがないと、ちょっと物足りない気がするな・・・。
(2010.03.22 読了)
この記事へのコメント
ERI
皆で、おバカさんな事をしてる熱が、だんだん「狂」を帯びてくるところが、上手く描かれてましたねえ。
「〈京都〉ってホントなんていうか、いけずさんだなぁ」っていう水無月・Rさんの感想に、うんうん、頷きました(笑)
京都でけっこう長い間働いてましたが、どうも、大阪もんには、最後までようわからんところがありましたねえ。でも、そんな受け入れ難さというか、ちょっといけずなところも、京都の魅力です。昔、島原の遊郭につれていって貰ったことがあって。お目にかかった大夫さんは、それはそれは美しくて、柔らかい言葉で、付け入る隙が全くなかったです(>_<)そんなことを、ちょっと思い出しました(笑)
水無月・R
「金魚」「劇場」で、盛り上がってたところが、「狂」にすり替わる怖ろしさ。面白かったけど、やっぱり怖いなぁ~。並行世界なのか、交差する世界なのか・・・。
実は京都に結構近い所に住んでるんですが、初詣ぐらいしか京都には行ってないですねぇ。表の大通りしか歩けない・・・(^_^;)。
うわぁ!ERIさん、太夫さんに会ったことがあるんですか!・・・一般の女性は、絶対に太刀打ちできないんでしょうね(笑)。
june
色彩豊かな描写もファンタジックで美しくて、無性に京都に行きたくなってしまいました。疎外されてもいいですから・・。
水無月・R
この作品の〈京都〉は面白いんだけど、どこか不穏。でも、魅力的ですよねぇ。
ただし、「宵山万華鏡」の中だけは・・・入りたくないですね(笑)。
すずな
私も、もりみーの「付き抜けた笑い」が大好きなのでちょっと残念でした。
水無月・R
モリミーの描く、トホホなまでに無駄に回転数上げてる感じが好きなので、ちょっと残念でしたね~。
不気味さと「突き抜けた笑い」は、両立しないのかもしれないですね。
たかこ
京都っていけず、ってわかるような気がします。
京都が好きでも一観光客にすぎない私には、こんなモリミーが書く不思議な世界は見せてくれないだろうなぁ、と。
ほとばしる妄想力!すんばらしいです(笑)
水無月・R
いやぁ、トホホっていいですよね・・・(笑)。頑張ってるのにトホホ・・・♪
モリミーの突き抜けてゆくあの「しょーもなさ」はが大好きです、私(^^)。
京都はやっぱり、いろんな意味で一見さんお断りなのかな~。
雪芽
すっかりご無沙汰でTBとコメントのお返しも超々遅っ!ですみません。他のことで忙しくて最近やっと読書も復活している状態です。
さて、モリミーが見せてくれる万華鏡をわくわくしながら覗き込んでみたら、せつなさと妖しさと笑いと莫迦ばかしさがひとつになって、和洋中華をたらふく食べた満腹感でいっぱいです。
森見錦絵が美しかった。
小長井くんのトホホ感はモリミー作品には欠かせないテイストでいいですね。報われなくてちとかわいそですが^^;
水無月・R
いえいえ、お気になさらず~(#^.^#)。
おバカな世界、不気味な世界、透明にさびしさを湛える世界・・・渾然一体となった魅力と不穏さ、確かに満腹~(^_^;)ですよね。
小長井は良いですよ!小長井!トホホには愛があるのですよ(笑)。
ホント、モリミーの描くトホホ男子は良いです。大好きだなぁ♪
香桑
私、小長井にも素敵男子を感じましたが、一番好きなのは最後の「万華鏡」なんです。
これまでの種明かしのようでいて、余計に煙を巻いてしまうファンタジーらしい一章です。
『千と千尋の神隠し』のようなものだと思いました。
子どもが人ごみで迷子になった時、同じように心細くて、世界はこんな風に異世界に変貌するんじゃないかな、って。
水無月・R
最後の「万華鏡」の章はホント、一見同じに見せて、実は別の並行(交錯する?)世界を描いていて、少々ぞっとしました。
そうですね、きっと迷子になって不安を覚えたとたん、世界は違うものになってしまうのでしょうね。