少女マンガの名作として名高い、萩尾望都さんの『トーマの心臓』を、森博嗣さんが小説化。
・・・といっても私、原作の方は読んだことないんですよ。ちょっとしたあらすじ程度は知ってましたが。ですので、原作との比較はできません。単に、森さんの小説、として読みました。
家柄が良く、能力の高い少年達が学問に励み、つつましく品良く暮らしている寄宿学校が、舞台。
優等生のユーリに手紙を残して死んだ、トーマという下級生。彼の死は事故と処理されているが、自殺だったという噂もある。ユーリと同室のオスカーは、少し前からユーリの様子がおかしいことに気付いており、それとなく助力を申し出るが、彼は何も話してくれない。そんなある日、トーマにそっくりな転校生・エーリクが現れ、ユーリとの確執が生じる。
エーリクの母が事故で死亡し、ユーリとオスカーは弁護士のところへ行ったエーリクを迎えに行く。
その後も何とかユーリとエーリクは、お互いに関わらぬことで表面上の平衡状態を保つことが出来たのだが。
ある日、オスカーにあこがれる下級生が、トーマはユーリの秘密を知っていたと告白する。学校の保健医、オスカーの後見人である教授に、ユーリに何があったかを訪ね、そして最後にユーリの口から真実を聞く。
そして、ユーリは神学校へ行くために、学校をやめ、旅立ってゆく。
森さんらしいなぁ・・・と思いました。登場人物の少年達の現実味が、いい意味で薄い。「かそけき」という言葉がぴったりですな。文中に入る萩尾さんイラストのその繊細さに似合う、線の細いキラキラした少年達。心優しく、思慮深い、あの少年達は、外界と切り離されたあの寄宿学校で、様々な経験、出会いと別れを経て、育ってゆく。
退学した先輩が現れたあたりで、ユーリに何があったのか、なんとなく見当を付けてしまった自分が、ちょっと悲しいし、嫌だ。但し、最後までそんなことは一切描かれていなくて、文中から推測して、多分そうなのだろうということなのだけど。
トーマが自分の命をかけてユーリを救おうとしていたのでは、というのは多分、「ユーリの秘密」を知る自分を消すことで、少しでもユーリの苦悩を減じられれば、・・・ということだったのかなぁ、とは思うのですが、よくわからないです。
オスカーは母がドイツと日本のハーフのクォーター(実はもっと血は濃い)、ワーグナ教授は生粋のドイツ人、ではあるものの、他の少年達のドイツ風の名前はニックネームで、舞台は日本。大陸、汽車、「国家のために」という発想が少年達にあることなどから、時代は大戦前あたりでしょうか。
ただ・・・あの時代の少年達が、全校揃って外国名前のニックネームで呼び合うってのは・・・あるんですかねぇ。確か、原作は外国の物語だった思うので、それに合わせてそういう名前にした・・・って事なのかしらん。舞台を日本にする必要があったのかなぁ・・・という疑問が残ります。ちょっと不自然かな。
色々疑問はあるものの、やはり森さんの描く現実味をそぎ落としたような少年達、描かれている情景は美しく、ややもすると幻想的。読んでいる間ずっと、美しい世界を遠く眺めていました。私のようながさつ者は入ることは叶わない。でも、それでいい。あのガラス細工のような、繊細な世界は、触れたら壊れてしまいそうだから。
(2010.03.24 読了)
この記事へのコメント
june
こういう繊細で美しい世界はすごく好きです。
でも、日本の設定は不思議ですよね。
水無月・R
トーマは何故死んでしまったのか・・・。あの年頃の子供が、恋焦がれる上級生のために思い詰めるとそうなるのかも、という憶測にすぎないのですが・・・。
森さんの、触れると壊れてしまいそうなくらい繊細な物語は、とても美しくて、大好きです。