『山魔の如き嗤うもの』/三津田信三 ◎

山魔の如き.png
山魔(やまんま)に嗤われたら、終わり・・・。
えぇぇぇ!!ちょっと待て、終わりって何?!終わりって!
冒頭の郷木靖美(ごうきのぶよし)氏の原稿「忌み山の一夜」からすでに、〈夏にぴったり不穏な怪奇物語♪〉の風味たっぷりだったのですが・・・。
相変わらず三津田信三さんの『◎◎の如き●●もの』シリーズ、土着系民俗ホラーの怖ろしさを、遺憾なく発揮しています。
さて、本作『山魔の如き嗤うもの』(やまんまのごときわらうもの)の事件、刀城言耶はこれをどう読み解いたのか・・・。

いやぁ、暑いですねぇ。今日から学校がやっと始まり、うるさい子供たちがいないので、やっと一息つけますよ、私。て言うか、いつまでこの暑さは続くんでしょうか、いい加減勘弁して欲しいです・・。
実は水無月・Rの家、事情があって今夏ノーエアコンでして。室温37度という世界では、本を読むというインプットは出来ても、レビューの原稿作るというアウトプット作業がすっかり滞っております。あと2冊、8月中に読了した本があるんですが・・・。
昨日、もうすぐ夏休みが終わるという気の緩みか、或いは、あまりの暑さ続きで体が負けたか、鬼の霍乱とばかりに熱中症もどきで寝込んでしまいました。平熱より2度高いだけで、あんなにぼけーっとしてしまうものなのですなぁ(笑)。普段、とてつもなく頑丈な人間なんで、めったにできない経験でしたよ、ホント(^_^;)。

さて、話を『山魔の如き~』に戻そう。
神戸(ごうど)地方の名家、郷木家の四男・靖美はいやいやながら〈成人参り〉をした際に道に迷い、忌み山である「乎山(かなやま)」に侵入してしまう。そこで出会った山の民らしき一家は隣の集落の名家・鍛炭(かすみ)家の出奔したはずの長男とその家族であるという。怖ろしい体験をした一夜を経て起きてくると、朝食を食べ掛けた様子で、一家がいなくなっている。内側から閂をかけ、密室状態のまま・・・。
慌てて外へ飛び出し、隣の集落へ助けを求めに行き、もう一度乎山へもどるが、山の家には人の住んでいた気配すら消え去っていた・・・。

それから取り憑かれたかのように、郷土の怪異について調べ始めた郷木靖美は、その体験を原稿化し、雑誌『書斎の死体』を発行する怪想舎へ送った。流浪の怪奇蒐集作家・刀城言耶の担当編集者・祖父江偲はそれを読み、舞台が以前に刀城言耶が訪れた奥戸であることに気づき、原稿を刀城に託す。
刀城は、山魔の怪を調べるため奥戸の地を訪れるのだが、そこから奥戸に伝わる「六地蔵様のわらべ歌」になぞらえた連続殺人事件が始まってしまう。

繰り返される、山の家の密室及び乎山への通り道の目撃証言から割り出される、忌み山の密室状態。似ている親族と入れ替わりの可能性。一帯に伝わる、不気味な民俗伝承。乎山が金山かもしれないという憶測と、その為に幾多もの人が消えたという事実。金山を示唆する「六地蔵様のわらべ歌」とその見立て殺人。次々と、さまざまな関係者が殺されてゆき、刀城言耶は知り得た事実と民俗伝承をより分け、推理を展開する。
二転三転する、推理と分析。完璧に見えて、一つが揺るぐと全体が崩れ去り、また新たな推理が広がる。
そして、一つの真実のようなものが見え、真犯人とおぼしき者は追い詰められ、乎山に残る六墓の穴に落ちて、姿を消す。
東京に戻った刀城は、失踪した郷木氏の従兄弟・高志に事件の経過報告しながら、更に新しい推理を話し始める。連続殺人の本当の犯人は、郷木氏だと。動機は〈成人参りの失敗への復讐〉。郷木氏のフリをしていた高志氏。ここにも、似ている親族がいたのだ。そして、高志氏も失踪する。〈従兄弟が呼んでいる〉と言い残して。

しっかし、このシリーズの表紙の絵って、ホント怖いですねぇ(笑)。襖をあけて、妖しく微笑む、おかっぱの美少女。両方の手は両脇の襖にかかっているはずなのに、鳩尾のあたりに何か不気味な顔らしき物を支えている別の一対がある・・・。あれは、山魔・・・?

ねっとりじっとりとした、土着民俗伝承。それにまつわる、不可解な事件。だがそれは〈ひと〉が為した事件であり、合理的解釈やアリバイ崩しがあり、全てに筋が通った解決がなされたはずなのだが・・・。
何か少しだけ、引っ掛かることが出来、そこから、さらさらと崩れて行きそうな予感を含んで物語が終わる。
怖ろしいのは〈ひと〉か〈怪〉か・・・。
その合い間を彷徨い、合理的解決をつける、流浪の怪奇蒐集作家・刀城言耶は、これからも様々な怪異と出会っていくことだろう。
合理的解決と、秘かにこぼれおちる何かを、読者に描いて見せながら。

まだ続くこのシリーズ、このじわじわくる怖さと合理的解釈の両立、クセになりそうです。

(2010.08.28 読了)

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