『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』/本谷有希子 △

なんとも「痛い」物語である。
「痛々しい」でもあるし、今流行りの「イタい」でもあり、もちろん実際に心身ともに「痛い」。
今まで読んだことのある、本谷有希子さんの作品とは全然違う傾向で・・・ビックリしました。
『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』というタイトルのインパクトもすごいよね・・・。

家族の愛憎劇、というと昼メロ調だな。
だけど、この物語にはそんな甘さは一切なく、ただひたすら自信と自尊心に突き動かされて言動する、和合家の長女・澄伽の自分勝手な苛烈さと、その長女に振り回される兄・宍道と妹・清深と兄嫁・待子の被害のひどさ、そして澄伽すらも愕然とするラストが、あまりにも印象が強すぎる。
いやぁ~、誰が一番酷いんだかなぁ(笑)。

あらすじを書くと、面白さも酷さも薄まってしまうだろうと思うので、やらない。
「三島由紀夫賞」の最終候補作品となって、物議を醸したというもの頷けるよ、確かに。

言えるのは、やっぱり女って強いよなぁ・・・って事。いや、私も女だけどさ。
自分の大望のためにに家族を踏みにじり、それに対して何の躊躇も罪悪感も持たない澄伽。過酷な生まれ育ち、夫からのDVにも耐え、鈍感さで身を守りながら、衝撃のラストでは澄伽を支える、待子。
姉の異常なまでの自信に興味を持ち、観察し表現することに熱中しすぎて、暴露漫画を描いてしまった清深。
それに比べて、澄伽からもたらされるストレスと自責の念から、死に至ってしまった宍道は、弱いというか、憐れだった。
主要な登場人物たちには、それぞれ色んなストレスがかかっていて(主な原因は澄伽なんだけど)、各々何とかしてそれをやり過ごしているんだけど、どうも宍道だけは、正面からブチ当たって、崩壊してしまった・・・という感じ。

しかし、あのラストはすごかった・・・。そうくるかよ!って、ねぇ。
しかもそのあとに延々と続く、血を吐くような澄伽の心の絶叫。
ガラガラと崩れて行った・・・て感じですな。
それをあっさり受け入れて、流されることのできる待子も、すごいと思うわ・・・。

(2010.09.27 読了)

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