第一回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作。2008年に創設されたこの地方文学賞で、大賞は逃したものの優秀作品として賞を受け、タイトル「罪人いずくにか」を『少女たちの羅針盤』と変え、出版されたもの。
この原稿を書くにあたってネットで調べたら、今度映画化されるんですねぇ。文学賞を主宰した福山市をロケ地にして。
作者水生大海さんは、元々漫画家だったそうですが、それだからでしょうか、少女たちの描写がとても鮮明なのが、印象的でした。
福山市は、私が以前住んでいたM市の隣市でして、この文学賞が設定されたときは、結構注目してたんですよねぇ。で、大賞作『玻璃の家』も読んだことだし、読みたい本リストも少しずつ進み始め、この作品に至ったのですが。
期待以上に良かったですよ~、この作品。少女故の繊細さと無鉄砲、傲慢と美しさと弱さと強さ。
伏せられている被害者が誰か、何故そこへ至ったのか。
単純な私なんかは、すっかり騙されてしまいました。
あの地方都市で、たった4人の女子高生劇団『羅針盤』が一躍脚光を浴び、そしてあの殺人事件が起き、『羅針盤』は活動を停止した。それから4年。顔を変え、芸名を〈舞利亜〉と変えた「わたし」は、『羅針盤』のメンバーを殺したことを誰にも気づかれないまま、あまり売れていない女優としてロケ地にやって来た。
そのロケ地・うらぶれた洋館で、舞利亜が監督から渡された新しい台本は、主人公が4年前誰にも知られず殺した女の亡霊に追い詰められる、というものだった。しかも印刷用紙が足りない、サスペンスな演出効果を狙って主役の舞利亜にだけは物語の進行を一切教えないということで、部分的にしか台本を渡されず、心理的にも追い詰められていく。
その現在の物語の合間を縫って、4年前の『羅針盤』結成から初舞台(路上演劇)、彼女たちの才能の煌びやかさとそれを妬む者の妨害、市主催の演劇ステージバトルでの成功と受賞できなかったやらせの構造、『羅針盤』メンバーのそれぞれの家族事情、メンバーの映画出演抜擢とそれを機に暴発した事件、そしてメンバーの死、という『羅針盤』の歴史が語られていく。
そして、最後に殺したものと、殺されたもの、現在の〈舞利亜〉を追い詰めた者たちが明らかになる。
現在の〈舞利亜〉を追い詰める、わざとらしいまでのサスペンス進行。そして4年前の才能ある女子高生たちの溌剌とした演劇に掛ける一途な思いや行動の、清々しさ。2つの物語は全く違った手法をとりながら、お互いに響き合い、時に不協和音を成し、読者を騙していく。
4人のメンバーの名前に「東西南北」の漢字が部分的にでも入っているから『羅針盤』。自分たちがこぎ出す、大きな演劇界という海の中で、自分たちを見失わない為にも、失くしてはいけないもの、アイデンティティの意味合いも含んでいただろう、輝かしいユニット名。
対立する匿名のネット攻撃者たちや、路上演劇妨害者たち、そして最終的にそれを後ろで操っていた存在の醜さが際立ったと思う。
誰が殺されたのか、なぜ殺されたのか、どうやって殺されたのか、そして犯人である〈舞利亜〉は誰なのか。
『羅針盤』メンバーが演劇に情熱を注げば注ぐほど、彼女たちの前に立ちふさがるものは大きくなる。それでも彼女たちの演劇は更にレベルを上げて行く。その真摯な姿は強く美しい。
最後に〈舞利亜〉を追い詰め、罪を思い知らせた者達は、舞利亜を殺しはしなかった。
彼女達はこの『復讐』を終え、新しい自分たちの道を歩き始めるのだ。
予想以上に力強い物語で、暑さも気にならず、ぐいぐいと引き込まれて読みました。
但し、暑くてアウトプットが・・・(笑)。
(2010.08.29 読了)
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