『密室の如き籠るもの』/三津田信三 ○

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土着民俗系ミステリー(注:水無月・R的勝手な分類項目です)の、三津田信三さんの、『◎◎の如き●●もの』シリーズ。
本作『密室の如き籠るもの』(みっしつではなくひめむろと読む)は、このシリーズ初の短編集。
ただ・・・おしむらく、短編にしたら「土着民俗」な部分が薄まってしまったような・・・。
陰鬱~に、じめっとした怨念ぽい感じで怖い、ってのが私的には魅力だったんで、ちょっと残念。

「首切の如き裂くもの」
御屋敷町の路地で、若い女性の首を切り裂くという連続殺人が起きる。犯人とおぼしき人物の自殺で幕を閉じたのだが、その路地に怪しい現象が起き、更に起こった殺人。刀城言耶、出版社からの依頼を断れず、現場を観察していた人の話を聞き、謎を解く。
「迷家の如き動くもの」
山中を超えて薬を売り歩く女性二人。数時間差で同じ場所から見たはずなのに、一人には家が見え、一人には見えず。あとから来た2人の行商人も、見たものと見ていないもの。謎を話し合っているところに、刀城言耶登場。人間を喰らうために山中をさまよう「迷家」の謎を解く。
「隙魔の如き覗くもの」
隙間を覗くと、過去か未来を幻視してしまう女性教師。彼女の学校の校長が殺され、容疑者としてあげられたのは、同僚教師たち。彼らのアリバイは彼女の証言で確立されたはずだが・・・。刀城言耶、隙魔を利用したトリックを崩す。
「密室の如き籠るもの」
人ならぬ気配を持った後妻。密室のはずの蔵の2階で、彼女は死んでいた。自殺か?他殺か?関係者の証言から、刀城言耶が導きだした答えは・・・。そして、彼と屋敷の主人が守ったものとは。

土着民俗系なのは、「迷家の如き動くもの」ぐらいかなぁ。謎解きの仕掛けは、2視点ものという案外単純だけど、思いつかないという意味では、なるほどな~と思ったんですけどね。
どれが良かったかというと、微妙・・・です。ミステリーとしては、それぞれに面白い謎の解き方をしてるとは思うんですけど、どうも「三津田さんならおどろおどろしい展開」と勝手に期待してて、それを裏切られちゃったので・・・。

ただし、いつもの二転三転する推理、というスピード展開の面白さは健在ですな。論理的に謎に相対し、自分の推理の過程をたどり、気づいた矛盾点から元へ戻って別の推理を展開し、そして、「真実と思われるもの」を提示する。だけど・・・その「真実と思われるもの」は、『思われる』であって、確実な証拠があるわけではない・・・。

今まで出てきた長編に出てきた人物もいるんですが、イマイチ影が薄いですね(笑)。
それより、ミステリー誌『書斎の死体』を出版する怪想舎で刀城言耶を担当する編集者・祖父江偲ですよ。関西出身で自分を「うち」と言い出したら、もう止まらないハイテンション女史。何とか刀城言耶に謎解きさせよう、推理小説を書かせよう、とあの手この手でそそのかすその手管は、天晴れというしかありません。どうも刀城言耶も祖父江偲には頭が上がらないようで(笑)。

次作では「じっとりと怖~い・土着民俗系」で、最後の最後で「合理的解釈の転覆」を図って頂きたいものです。あ~いえ・・・そのう、個人的期待ですけどね~(^_^;)。

(2010.10.09 読了)

密室の如き籠るもの
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商品副データ講談社ノベルス三津田信三 





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