水生大海さんの前作、『少女たちの羅針盤』を読んでいないと、ちょっとわからない部分があるような・・・。
高校演劇の大会の当日に、『かいぶつのまち』というその劇になぞらえるかのように、悪意のある事件が続出する。しかも、混乱は以前から続いているのだという。
〈かいぶつ〉は誰なのか。何故、演劇部に事件が起こり続けるのか。
地方小都市で一躍脚光を浴び、そして瞬く間に活動を停止し、姿を消した、女子高生演劇ユニット『羅針盤』。
その『羅針盤』のメンバーたちが卒業して5年、脚本家の瑠美、新進気鋭の脚本家バタ(光石要)、アメリカで売り出し中の女優の蘭の3人は、瑠美とバタの出身である橘高校演劇部の全国大会出場を応援しに、会場に集まる。
ところが、舞台前日から顧問や教頭は酷い腹痛で体調を崩し、主役の糸川をはじめ、出演する生徒たちにも不調を訴える者たちが続出する。更に糸川の元に以前から届き続けるカッターナイフが重ねて現れ、糸川は狂乱してそのカッターでバタの手を斬りつけてしまい、当日帰宅してしまう。
不調をおして何とか舞台を演じ終えるものの、はかばかしい結果は得られず。
後日、バタの血の付いたカッターが、糸川の元に送りつけられ、糸川は自殺未遂。怒り狂った糸川の母からそれを聞いた瑠美はバタと蘭と共に、関係者たちに話を聞くために故郷に戻る。
関係者たちは、糸川に送り続けられるカッターの話、途中で転校退部した3年生の話、現顧問に対する不満を瑠美たちに告げる。
途中で差し挟まれる「怪物は呟く」という短い章。「怪物」は誰なのか。
それが暴かれるのは、最終章。他校との合同公演の舞台上で、「怪物」は暴かれ、糾弾される。
ミステリとしてちょっと小粒かなぁ・・・。とりあえず、犯人を追いつめるのを舞台演技のオチに使うのはいかがなものかと・・・。確かに「怪物」のやったこと、は間違っているけれど。橘高校に関係ない人たちが大勢いるところで、大ごとになり過ぎてしまうんじゃないかと思う。
それから、「怪物」が誰かは割と早いうちに目星はついたんですが、ただ「この人が怪物じゃ簡単でつまんないよなぁ~」と思い、もうちょっとひねった結果になることを期待してたんですよね~。いやぁ、ちょっと、ねぇ。愕然とするような事実も、あんまりなかったし。
映画化するから、急いで続編を作った・・・って感が否めなくもないかも。
元『羅針盤』メンバーが謎解きの中心となるため、前作では確かに存在した、高校生たちの演劇にかける情熱、10代特有の頑なに生真面目な感覚、危ういまでの清々しさがあんまり見受けられず、物足りない感じ。
ただ、「怪物」の仕業と別の方向からの妨害の2種類があった、というのは話の流れでは、なかなか気付けなかったので、その辺は上手く作ったのだなぁ・・・と思ったのですが。
劇で重要な役目を持った「ナイフ」という小道具が、「カッターナイフ」に変わって現実の高校生を追い詰めて行くという物語の進行は、結構サスペンスでした。
ただ、最終章の「怪物」を追い詰めて断罪する劇は・・・一連の物語の流れを知らないと、なんだろう?ってなってしまうだろうなぁ。橘高校演劇部以外の人は、びっくりしてポカ~ンだったんじゃないかしらん。もちろん、この舞台上での告発がない限り、物語としては全くしまりのないものになってしまうから、必要な事だけど。
私は、どちらかというと、瑠美が書いた脚本「かいぶつのまち」の舞台(高校生版じゃなくて劇団版)を見てみたい。
それと、強烈な個性というか、昔よりパワーアップしている渡見顧問。結構気が強くて、実力も認められてきた瑠美やバタも全然かなわないというのが凄い。直接関わりたいとは思えないんだけど、「うわ~渡見先生、全然変わってない・・・、っていうか前より凄くなってるよ・・・」と野次馬的に、遠くから鑑賞してみたいような、怖いような。舞台への情熱や気力が足りない!と生徒達に精神論を説くのはまあいいとして、お腹を下している生徒に対して「おむつを履いてでも舞台へあがれ」というのは、如何なものかと思いますよ?PTAに知られたら、大問題だと思う・・・。
(2010.11.09 読了)
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