あれ~?なんか違うなぁ・・・。
南の島が舞台だからか、微妙に物語の世界観が期待してたものとズレてる・・・。
恒川光太郎さん特有の仄かな寂しさを湛えた異界の気配が・・・しないような。
いえ、ファンタジーとしては魅力のある作品だと思うんですよ、『南の子供が夜いくところ』。
ただ・・・単に私が期待していた和製ホラー(静かに怖い)と違ってたってだけですから。
両親と遊びに来た海で<今年で120歳>というおねえさんと知り合い、いつの間にか彼女に連れられはるか南の海に浮かぶトロンバス島に住むことになった、タカシ。
トロンバス島で起こる不思議、おねえさん=呪術師・ユナさんの歴史、様々な時代と島の中であちこちと繋がる別の世界。
それぞれの短編に別の主人公がいるものの、お互いに少しずつ関係があって、全体で一つの物語ともいえるんだけど、最後の1章ではまとめ切れてない気がする・・・。
「南の子供が夜いくところ」
タカシがトロンバス島に着た経緯。
「紫焔樹の島」
ユナさんが巫女になり、そして長寿になったわけ。
「十字路のピンクの廟」
タカシの友達ロブが墓から連れてきたものは?
「雲の眠る海」
トロンバス島の遥か彼方の島から来た客人。
「蛸漁師」
島に住むヤニューという妖怪。ヤニューは存在するのか。
「まどろみのティユルさん」
タカシが見つけた、岩から浮き上がる元海賊のティユルさん。
「夜の果樹園」
タカシの父が、息子の元へたどり着く前に迷い込んだ町で。
南の島といっても、未開の地ではない。電気も電話も通っているし、他の土地とのフェリーも普通に通っている。だが、そこには確かに<現在の此処>とは違う世界も存在する。
墓参りで酔ってしまったり、雲を通り抜けたり、間違ったバスに乗ってしまったり、ふとしたことで、違う世界に迷い込んでしまう。
アミニズム的な世界観は、時に残酷。微笑ましい悪戯もあれば、叶う筈のない希望や憎しみ、諦めに彩られている。ただ、南の島という明るい世界だから、どこかに救いがあるのではないかと期待する。
悪いことも、良いことも、全ては南の島の夜の海に寄せては返す波のように、洗い流されていくのかもしれない。
「まどろみのティユルさん」が、一番好きだな。海賊だったティユルさんが大事に思っていた仲間・ソノバ、そのソノバが連れてきたのはまだ年若いユナさん。タカシがユナさんを連れて来た時には、ティユルさんは菩提樹の木になっていたけれど、きっとユナさんはティユルさんを感じることができたんじゃないかな・・・と温かな気持ちになった。
逆に一番いやだったのが「蛸漁師」。悪意が悪意をめぐり、ヤニューという怪物が出現する。ヤニューは「醜き人の心」なんじゃないか。ヤニューが現れる時、人は内面で対話しているのではないか。己の、悪意と。そそのかされるがまま、悪を成すことで、人はヤニューになり、自らの罪を認めずに責任転嫁するのではないかと、そう思う。
「紫焔樹の島」でユナさんが食べてしまった白い禁断の実。不老長寿ではなく、年を取るのが相当遅いという効果がある。不老長寿ではない、というところが呪いだなぁと思う。いつかは老いるが、知り合った人々全てを見送って尚、生き続けなければならず、そして少しずつは自らも緩慢に老い朽ちてゆくのは、悲劇だろう。もちろん、本当の不老長寿もまた、別の意味で苦しかろうと思う。
ううむ・・・南の島というまだ自然信仰的なものが残っている島でのファンタジー、悪くはなかったんだけどなぁ。
物悲しく郷愁をそそる、恒川ワールドとも言える世界観の方が、私は好きかな~。
(2010.12.02 読了)
この記事へのコメント
ERI
「郷愁」は確かに恒川さんの作品に、常にありますね。心の深い記憶って、どこか繋がっているものなのかもしれない。記憶の水脈をたどるような怖さと懐かしさ。けっこう病みつきになります。
すずな
水無月・R
アニミズムって、結構からみつく感じがしますよね~。微妙な浮遊感というか、夢幻というか。
恒川さんの作品の奥底に流れる「郷愁」は、もちろんこういう南の島の世界にもあるのだろうなぁと思います。
>すずなさん、ありがとうございます(^^)。
ちょっと・・・違ってましたよね~(^_^;)。
これはこれで、ファンタジーとしてはイイものだと思うんですけど。
次の短編集はおススメとのこと、楽しみにしています♪
空蝉
微妙に、けれど確かに「こちら」の歴史とリンクしつつ夢の世界のように存在するもう一つのパラレルワールド。相変わらず恒川氏の作品は面白いです。
ただやっぱりこれはホラーじゃないですよね。
私の中ではいつまでも「夜市」の感動が忘れられません;;(失礼な)
でも最新作、「竜が最後に帰る場所」はなかなか良かったですよ!
水無月・R
そうなんですよねぇ、ホラーとはちょっと違うというか。
『夜市』のインパクトは、タダモノじゃなかったですもんね。
次作は結構いいという評判を聞いているので、楽しみです。読むのは当分先になっちゃうでしょうけど・・・(^_^;)。
yori
水無月・R
和製ホラーではありませんでしたが、独特の世界観が美しかったですね。
恒川さんは、この作品あたりから、色んな作風にチャレンジされるようになった気がします。
どれも、恒川さんらしさを維持しているので、大きなハズレはないんですけどね(^_^;)。私はやっぱり和製ホラーの方が好きかな~。