過去を振り返ってやりとりされる手紙による、物語。書簡小説と言うとモリミー(森見登美彦さん)の『恋文の技術』を思い出しますが(『恋文の~』は往復ではなく往信のみで返信はない)、そこはやはり湊かなえさんですから。全く違った方向性です。が、今までの湊さんとはまた違いますねぇ(そりゃそうだ)。
『往復書簡』というタイトル通り、手紙のやり取りだけで、物語が進行する。手紙という形態だからこそ、色々なフェイクを仕掛けることが出来、そして真実を語ることもできる。
何が真実で、何が偽装なのか。
湊さんと言えば、あの後味の悪~い、悪意の連鎖、些細な感情の悪循環が、最悪の結果を呼んでしまうという、大変ダークな作風だったんで、手紙のやり取りの中で、いつ更なる悪意が噴出するのか・・・とビクビクしながら読んでおりました。そしたら、今作はそういう心配は必要なかったので、ほっとしたというか、ちょっと肩すかしだったというか。
いえ、面白くなかったということではないのですよ。ビックリしたというか、なんというか。
やり取りの中で、手紙だからこそできるトリックなどの仕掛け、真実の告白、なるほどねぇ!と感心しながら読みました。
ただ、いくつか「それはちょっとどうなんだろう」と思うようなことがありましたけど…。
「十年後の卒業文集」
仲間の結婚式に10年ぶりに集まった仲間。一人来なかった者の、失踪の真実とは。
「二十年後の宿題」
退職した恩師に、20年前に担任だった生徒が幸せに暮らしているかどうか調べてほしい、と依頼される。
「十五年後の補習」
15年前、記憶の一部を失った私。海外にいる恋人との手紙のやり取りで、思い出した記憶。
「十年後の~」では、十年たったら判らなくなっちゃうものかなぁ?という疑問が。
「二十年後の~」では、一人のために他の五人を利用する…というのかトラウマになってるのかもしれないのに事情を知らない人に様子を探らせる、ってどうなんでしょうね。
その中で「十五年後の補習」は秀逸でしたね!事件の部分のみ記憶喪失ってのは、ちょっと都合よすぎない?って思いますが(^_^;)。手紙のやり取りが進むにつれ、二転三転する記憶、海外との手紙だから生まれてしまうタイムラグ、そしてすべてを思い出した彼女の行動。まあ、こういう状況になるというのは、かなり特殊な例ですが、信頼があるからこそこういう物語になるんですよねぇ!
面白い、というとちょっと違うんですが、なかなかいい趣向だったと思います。
(2011.09.17 読了)
この記事へのコメント
すずな
私も十年たったら判らなくなるかな~という疑問は残りました。
水無月・R
ほっとする終わり方、というのが湊さんとしては新鮮でしたが、物語のつくりはしっかりしていて、さすがだなと思いました。
手紙という形式で探られる過去、偽られる現在、語られる真実という展開が、とても興味深かったです。