私は、近藤史恵さんの描く、『サクリファイス』に連なる、自転車ロードレースの物語が、とても好きです。
全く知らなかった〈自転車ロードレース〉という過酷で求道的なスポーツ、同じチーム内にエースとアシストという役割があってその関係には強い信頼があるという事、ロードレースの選手たちの「走り続けること」への強い思い、レース内の駆け引きや選手たちの個々の性質の違いなど、非常に魅力的。
本作『キアズマ』では、今までのシリーズから少し離れた「大学自転車部」の物語が始まりました。
面白かったですよ~。一気読みに近かったんじゃないかと思います。
緊張感あるレース、大学生らしい日常の練習、チーム内での付き合い方の変化、それぞれが抱えている過去、色々なことが反響しあって、ぐいぐいと物語の中に引き込まれました。
人との距離の置き方に、ぎくしゃくとしたものを抱えている主人公・岸田正樹が、どんどん成長していく姿が、とても清々しかったです。岸田以外も、部長の村上、エースの櫻井、チームメイトの隅田と、スポーツを通じて影響しあい、高め合う青年たちの関係性が、とてもよかった。
なんと、正樹の所属する「新光大学自転車部」はこの4人しかいない。しかも、村上は怪我で1年間走れない(その原因は正樹との事故)。全くの初心者だった正樹だけど、持ち前の体力や筋力・冷静さなどで才能を発揮し、実力をつけていく。
関西弁な櫻井がヤンキー扱いを受けているのが、ちょっと笑えました(^_^;)。
関西弁だけでヤンキーにしないでください、全国の皆さん(笑)。まあ、確かに櫻井は荒っぽいけど、すぐ巻き舌っちゃうけど、ヤンキーではありません。ヤンキーとは、ちょっと違うのですよ。ヤンキーは、スポーツマンにはなれません。←まあ、これは私個人の見解ですが(笑)。
最後のレース、良かったです。パンクして先頭集団から離脱した正樹が「櫻井さん。ホイール、俺にください」と言い、櫻井もあっさりと交換を受け入れる。そして、集団から1分半も遅れたにも関わらず、果敢に追いすがり、中での順位を上げ、ラストスパートをかけ、そして、3位入賞する。
懸命にペダルを踏み、一心にゴールを目指す。色々なものがそぎ落とされた、その走りが美しいと思う。尊いとすら、感じる。
そして、物語の最後に、正樹はこう思っている。
~~俺たちにはまだ何度でもチャンスはある~~
(本文より引用)
おぉ~!若いっていいねぇ!スポーツ青年はまっすぐで爽やかだ~。いいです、青春です!
櫻井のお兄さんのことも、もうちょっと物語として何かありそうだし、村上も選手復帰したら、どんな走りをするか気になるし、隅田だってアシストとしてもっと力をつけてくると思う。
まだまだ伸びしろの沢山ある青年たちの走りを、もっと知りたいなぁと思います。
正樹の過去、重いですねぇ・・・。どうすることもできなかったけど、それでもずっと自分の中で後悔が残る。割り切ってしまえないことで、更に自分を追いつめてしまう。もしあの時、ああしていたら、こうだったら・・・。
乗り越えたくても、乗り越えられない。それでも、それを抱えて生きていくのは、本当につらいことだろうと思う。
でも、そんな正樹だからこそ、この物語の主人公になりえたのじゃないかな、って気がします。
だから、これからの正樹たちの物語を読みたいですね~。
『サクリファイス』シリーズと銘打たれてるけど、チーム・オッジの赤城がマネージャーとしてちょっと出て来る(正樹に声をかける)ぐらいで、他のシリーズメンバーは全然出てこなかったので、そのあたりの絡みも、見てみたいし。
チカは海外だけど、きっと国際レースなんかで出会って、お互いを研鑽しあえるような(その頃チカや伊庭はベテラン?)レース展開を見てみたい。
きっと、緊張と興奮と若々しさと老獪さと、色々なものがせめぎ合う、素晴らしい物語になるだろうと思います。
(2013.06.27 読了)
この記事へのコメント
苗坊
サクリファイスのシリーズと言っているので、てっきりチカたちの物語だと思っていたのですが違いましたね。でも、こちらも本当に面白かったです!
青春だなーと思いました^^
正樹と櫻井の抱えているものはとても重たいですけど、最後のレースで2人の間にはきずなが深まった気がしました。運命共同体になったような…
こちらもシリーズになりそうなので楽しみです^^
水無月・R
正樹と櫻井どちらがエースか、そんなことはどうでも良い気になるほど、爽やかな青春でした。
もちろん、二人が抱えるものは大きいのですが。
若手が出てきて、ベテランとともに走り抜ける。
そんな未来も思い描いてしまいましたね~。
続編、楽しみです♪
すずな
正樹が抱えるものは重くて、これからも振り回されることがありそうだけど、でも、負けずに頑張ってほしいなぁと思いました。まだまだ、若いですしね~(笑)
続編、読みたいですね。
水無月・R
大学の自転車部で、私も最初は驚きましたが、正樹がどんどんロードレースにのめりこんでいったように、どんどん惹かれていきました。
若者たちの今後に、期待したいですね♪