デビュー作で恋愛小説賞の大賞を取った、夢宮宇多。彼を担当する新人編集者・井上月子は彼を夢センセと呼んでいる。
その夢センセに盗作疑惑がかけられて・・・。
森晶麿さんは、初読み作家さんです。
『偽恋愛小説家』っていう、タイトルが素晴らしいですよね。非常に心惹かれる。どんな物語なんだろう、とワクワクしながら読み始めました。
タイトルを囲んで4人のお伽噺の主人公が描かれ、同じ並びに夢センセらしき人物と編集者・月子らしき人物がいて、その周りに散らばる沢山の書籍という表紙、その表紙の人物の物語が織り込まれた章タイトル。大変雰囲気がいい。
読み始める前から期待は高まり、全くその期待は裏切られないまま、物語は進行していきました。
作品の雰囲気のそのままの美貌の夢センセが読み解く、「シンデレラ」・「眠り姫」・「人魚姫」・「美女と野獣」。
各章で、様々な女性たちの現状を、甘くてふわふわしていて女の子の夢が詰まったその物語になぞらえては、暴いてゆく。そのたびに月子は、夢センセは本物なのだろうか・・・と心揺れ動く。
そういえば、一時流行りましたよねぇ。『本当は怖いグリム童話』とか、そういう童話の原典は結構残酷で云々、っていうの。
小さなお子さんには聞かせられないような話が多いんですよね、ホントは(^_^;)。
誰もが読めて夢のように素敵な物語になるように振りかけられた甘い砂糖衣を引き剥がすと現れる、現実的な教訓や美しくないどころか醜い真実。
そういう事だろうなと思いつつ、「ちょっと夢がなさすぎるよ、夢センセ・・・」という気にもなったりして(笑)。でも私もいいオトナなんで、苦笑いしつつ受け入れられます。現実って、そんなに美しい物ではありませんものね~(^_^;)。
実際子供の頃ですら、童話に「なんて都合がいい展開だ」的なことは思ったりしてましたもん(笑)。
夢センセの処女作『彼女』の本文が所々に差し挟まれ、「夢センセは、親友から『彼女』の原稿を奪ったのでは」「夢センセは『彼女』の物語通り、親友を死に追いやったのでは」という疑いが、ぐるぐるとその周囲を巡っては、濃さを増していく。
そして、最後の最後に明かされる〈叙述トリック〉。
あ~~~。やっぱり、そこか!と、頭をかきむしりたくなりました。なんか変だな~、なんか変だよねぇ~、とずっと思ってたんです。けど、気付けなかった!
ていうか編集者たる月子は、気付くべきだと思うな!(←責任転嫁(笑))
実は私、この作品がミステリだという事に全然気づかないままラスト近くまで来てしまっていたのでした。うう、お恥ずかしい。
だって、夢センセは美貌だというし、月子は夢センセに振り回されながらも段々に惹かれていくし、童話の解釈は辛辣ででも納得のいくもので、謎を読み解くという事に全然気が回らなかったんですよねぇ。作品に恋愛もの的イメージを持ちすぎてました。
冒頭に「夢センセは偽モノなのか?」という謎が提起されてたはずなのにな~(^_^;)。
夢センセのデビュー作『彼女』の全文を読んでみたいです。非常に美しい恋愛小説だそうで、現実(本作)との比較、してみたくなりますよね。
それと次回作『月と涙』に関わる物語、読んでみたいですねぇ。どんな謎が織り込まれるのかしらん。あ、もちろん『月と涙』そのものも。
ただ、あんまり私小説もどきばっかり書いてたら、モッタイナイな思うんですよ、夢センセ&月子サン。
新しい作品を書いても「また私小説か」と疑われるし、作風も限定されちゃうし。『月と涙』だなんて、ちょっとそのまんますぎやしませんかね(笑)。
とりあえず、夢センセのホントの本名は明かされてないので、そこに絡めて続編とかあるかもしれないな~、なんて期待しています。
(2015.04.14 読了)
この記事へのコメント
苗坊
こういう実際のおとぎ話と絡めたお話私わりとすきなんです^^子供向けではハッピーエンドでも実は・・・というくだりは大人になったから読めるところですよね~。子供の時に読んじゃったらがっかりしていたと思います^^;
でも中身はしっかりミステリでセンセはどうなってしまうんだろうとドキドキしていました。そうではないと思っていても、最後はほっとしました。
続編も可能ですよね^^読んでみたいです。
水無月・R
おとぎ話に辛口な真実が隠れてたりするっていうの、私も好きです~♪
大人だからこその楽しみですね(*^^)v。
続編、出ないかなぁ。他にもいろいろ、おとぎ話の真実はありそうですしね♪