美しくも儚く、青みがかった透明な水の向こう側の世界を垣間見ているかのような、浮遊感。
郷愁をそそる、優しく切なく、そして少しだけ罪作りな物語。
〈タテ読み、タダ読み〉のcomicoで連載されている西造(さいぞう)さんと世叛(よはん)さんの短編集、『遠くの日には青く』が待ちに待った単行本化です。
待っててよかった!とっても、素敵です。
comimoで読んでるから、内容は熟知しているはずですが、それでもどれだけ読んでも常に、胸に切なさが迫ります。
西造さんの描く絵が美しい、世叛さんが作り上げる物語に深みがある。両方の相乗効果で、幻想世界に連れて行かれます。
描き下ろし「魔女子さん」を含め、9編の物語は、一つ一つはそんなに長いものではないのですが、それでも一つ一つを読み終えると、心だけがどこかへと遠く旅をして戻ってきたような感覚になりました。
本作の中で一番好きなのは「flox ex machina」です。
ながく働いてきたメイドロボット・ロゼッタの胸に、草が生える。ロゼッタは、彼女を慕う主人の息子に「坊っちゃんが立派になられた頃にこの身に花を咲かせましょう」という。やがてロゼッタは動きを止め、惜しまれながら墓に納められる。いつしか、その墓からは草が生えるが、花は咲かない。時は流れ、かつて彼女を慕った男にも孫ができる。孫娘と手をつなぎ、墓を見つめて彼は思う。
~~ 彼女の前では 私は まだまだ 未熟者のようだ ~~(本文より引用)
花が咲かないのは、ロゼッタが嘘をついたからではなく、自分がまだ不完全なのだとつぶやくその姿に、切なくも心が暖かくなりました。
他にも、二分違いで生まれた双子の女の子たち、眠ってはならない男との旅、憧れのマドンナを思うあまり狂気に囚われた男、人生の走馬灯を見る女子高生、和製人魚姫、盆に死んだ兄と遭遇する弟、狂気に拍車がかかった男の末路、様々な物語がありました。どれも、好きです。それぞれ、色々な想像と解釈が広がる、余韻の深い物語でした。
描き下ろし短編「魔女子さん」も、とても短い物語ですが、胸に沁みました。
私は、二人は普通の母子であって、学校へ行く勇気のなくなった娘を励ますお母さんとの会話だと思いました。
お母さんも、離婚か死別で辛い思いをしていて、それでも人を恨んだり他人の不幸を願ったりすることなく、一生懸命生きることを自らに課して、自分力での幸せになろうとしているんだと思います。
きっと、二人で悲しみや辛さを乗り越えられる、素晴らしい親子になれると思います。
漫画原作がcomicoのノベルで発表されるようになったのですが、「二分遅れ」「ネムラズ」「マドンナ」「夢」が、発表されています。漫画を読んで色々考え、ノベルで一つの解釈を示され、また考える。
原作者・世叛さんのノベルも、深いです。それでも、物語の余白から、更に自分なりの解釈をしたりして、思考が広がる。世叛さんのノベルはただの答え合わせではない気がします。
漫画と原作の二本立て、とても素晴らしいと思いました。なかなかできることではないと思います。
現在も連載中なので、是非続巻を出して頂きたいですね!
「free bloom」や「まつとしきかば」とか、大好きなので、是非本として手元に欲しいです!
それから「白雪姫と女王様」や「なつめちゃん」「プリムラ」などのシリーズ物は、それだけで1冊にするってのはどうでしょうか。
『遠くの日には青く~白雪姫と女王様~』なんてタイトルになったら、素敵だなぁと思うんですが(笑)。
オールカラーで美しくて、切なくて、深くて…笑っちゃう物語もあって、とても胸に沁みる作品だと思います。
(2015.10.30 読了)
水無月・Rの〈『遠くの日には青く』シリーズ〉記事
『遠くの日には青く』 ◎(本稿)
この記事へのコメント