これは・・・!!
とても好みに合いました!
生と死の狭間をゆれる旅が多く描かれる『エムブリヲ奇譚』、素晴らしく、いいです。
人知を超える(?!)レベルの迷い癖のある旅本作家・和泉蠟庵の取材旅行を、荷物持ちの耳彦が語る。異界に彷徨いこんでしまったのではないかと思われる旅、死者と出会う旅、グロテスクな旅。
山白朝子さんは、初読み作家さんなんですが、実は有名な作家さんの別名義のようですねぇ。私はあまりそういうことは気にしないタチなんで、初読み作家さん扱いで行きます。
国が統一されて道が整備され、庶民が旅を楽しみ始めるようになったころ。
旅のガイド本である『旅本』を書くために、版元から依頼されて取材の旅をしている和泉蠟庵。彼は尋常でない迷い癖の持ち主で、一本道すら迷う、坂を上り続けたはずが目の前にひらけるのは海、街中を歩けば島にたどり着いてしまう。
そんな蠟庵の荷物持ちを務める男・耳彦は、旅に同行するたびに酷い目に遭い、二度と一緒に行くものかと毎度心に誓うのだが、生来のだらしなさから博打の借金を何度も作り、蠟庵に肩代わりしてもらい、そのためまた旅に同行することになってしまう。
「エムブリヲ奇譚」
蠟庵と耳彦、初旅。エムブリヲを拾った耳彦。
「ラピスラズリ幻想」
蠟庵と耳彦に同行した、書物問屋で働く娘・輪。とある村で老女からラピスラズリを受け取り、彼女の繰り返す人生が始まる。
「湯煙事変」
夜中に入ると、死者と出会ってしまう温泉。
「〆」
なんにでも人面がある村。食べ物にすら。耳彦のやってしまったこと。
「あるはずのない橋」
かつて落ちてしまい、再建されていない橋が見えた耳彦。
「顔無し峠」
山中で迷い、助けられていった村では、耳彦にそっくりな男がいたという。その妻は、耳彦を喪吉と呼ぶのだが。
「地獄」
山賊に捉えられた耳彦。捉えられている間、彼の食べていたのは・・・。
「櫛を拾ってはならぬ」
耳彦の代わりに荷物持ちを務めた男が、死んだという。
「「さあ、行こう」と少年が言った」
虐げられる地主の嫁の元に、迷い癖のある少年が訪れ、読み書きを教えてくれる。
少年は彼女に「さあ、行こう」と言う。のちに彼女は、旅本作者の荷物持ちと出会う。
グロテスクな耽美に満ちた旅。人の醜さに辟易する旅。人の優しさに出会う旅。
淡々と迷うことを受け入れる蠟庵と、何度酷い目に遭っても結局同行せざるを得なくなる耳彦。
耳彦の駄目男っぷりも大概なので、酷い目に遭ってても〈トホホ〉だとは思えないんですが、嫌いじゃないです。蠟庵も多分ほかにも荷物持ちを雇えるだろうに、あえて耳彦を誘い続けるあたり、彼のことを気に入ってるんでしょうねぇ。
~「あんたは反省してください。この迷い癖、度をこえています」~(本文より引用)だの、
~「私はもう、このような理不尽には慣れっこです」~(本文より引用)だの、
~「蠟庵先生はもう少し悲観してください!」~(本文より引用)だの、
耳彦も、結構言いたいことを言ってるし、なかなかいいコンビのようです。
まあ・・・どの旅にも、あまりついて行きたくないですねぇ、私は(笑)。
よく版元は、こんなに迷いまくる蠟庵に取材旅行費出すなぁ、と思います(^_^;)。迷いまくって素晴らしい秘湯に出会ったけど、結局どこにあるか分からない、じゃ旅本にならないのにねぇ(笑)。それを補って余りある、魅力的な文章と何とか書き記せた温泉地の紹介で、なんとかなってるんでしょうね。ははは。
どの旅にも、生と死の影が付きまとう、仄暗さがあります。それを引き寄せてしまうのは、「「さあ、行こう」と少年が言った」で明かされる、蠟庵の出生の秘密ゆえでしょうか。
悲しくも、醜く、それでいて目を逸らすことの出来ない、ひとの性(さが)。それらを描く旅に、惹き込まれました。
最終章の最後で、地主の嫁だった女(今は幸せな家庭を持っている)は耳彦と出会い、蠟庵を遠目に見るのだけど、一瞬にして蠟庵はまた迷子に(笑)。でも、きっと会えます。そんな明るい終わり方が、とてもよかったです。
それと、「エムブリヲ奇譚」でのエムブリヲと耳彦の暖かい関係も良かったです。途中、ちょっと良くない展開にはなりましたが、それでも反省してエムブリヲ手放し、最後に再会?できたのも良かったです。ただし、耳彦は思い当たらなかったようですが。ずっとずっと後になって「あの少女、もしかしてエムブリヲだったのでは・・・」と気が付いてくれたらいいなと思いました。
この本、表紙の装丁絵が、またいいのですよ(単行本)。蠟庵らしき美しい人物に、うねうねとまとわりつくものたち。
「エムブリヲ奇譚」のエムブリヲと思われるもの、「〆」の小豆(鶏)ではないかと思われるもの、骸骨らしきもの、目、蝶、少女、魚・・・。ちょっとだけグロいけど、耽美ですなぁ。
(2016.02.09 読了)
この記事へのコメント
苗坊
山白さんのこの世界観、たまらないですよね~。
この方の作品は「死者のための音楽」もおすすめです^^
耳彦がいい味出しているんですよね。飄々としていてでも温かみも感じて。
全体的にホラーっぽくて怖かったですが、怖がりな私もこの作品は大丈夫でした^^
装丁もタイトルも素敵ですよね^^
水無月・R
ダメ男な耳彦ですが、結局蠟庵について行きその迷い癖を許容できるのですから、いい奴なんだと思います(笑)。
ホラーだしグロ耽美なんですが、それでも惹きつけられる世界観が素晴らしかったです♪
「死者のための音楽」、既にリスト入りしてます(^^)。