『スロウハイツの神様』(上)(下)のチヨダ・コーキのデビュー作、『V.T.R』。
ホントの作者は辻村深月さんですけど、文庫の装丁が凝ってまして、カラー口絵がチヨダ・コーキ著の『V.T.R.』になってます。
コウちゃんの書いた小説が読めるとは、嬉しいですね!
政府公認の殺し屋がいる世界。主人公・ティーはその殺しの認可証〈マーダー・ライセンス〉を持ってはいるが、仕事をしない男。ある日、三年前に別れたマーダー・ライセンスを持つ元恋人・アールから電話がかかってくる。アールの軌跡を追うティーは、アールが生ける伝説のマーダー、トランス・ハイの配下に手を出していることを知る。
ほほう、コウちゃんはこんな小説でデビューしたんだなぁ…ライトノベルだなぁ、と、やや軽薄なティーの一人称で進む物語をさらさらと読み進める。何故ティーとアールが別れたのか判らないなりに、それでも物語は進んでいくのだけど、微妙な違和感があるような・・・ないような・・・。
そして、物語の終盤、アールの死体が海から上がる。プロの殺し屋の手口で、歯以外のすべての身元照合の証拠をつぶされて。でも、歯が残ってるから、身元はすぐ判る。見せしめのために。
ティーは行動を開始する。新しい銃を注文し、手に入れる。その銃に刻まれる名前は・・・。
え?えええ??!!
や・・やられた。単純に復讐劇が始まるのかと思いきや、まさかそんな・・・。
ティーは、これからどうなってしまうんだろう。
不穏な期待がよぎるラスト。
思わず「プリーズ続編!」と叫びたくなってしまいましたよ。
そして「解説」は、かの赤羽環。
環が書く解説、・・・色々深いですよねぇ。ケーキの話とか。
「チヨダ・コーキはいつか抜ける」という俗説に対する環の答えがよかったです。
私にとって、ただ意味もなくもがいていた思春期を支えたものは何だっただろうか…と考えてしまいました。
答えは、出なかったんですけどね。環にとってのチヨダブランドのような、衝撃的な唯一のものはなかったような気がします。でも、うん、支えてくれたものはあったのだろうな、と思います。
私は、向こう側に渡っちゃった人間なんだな、とちょっと淋しくなりましたが、まあそれもまた良しでしょう。
しかし、17歳のデビュー作らしい物語でしたねぇ。ちょっと物足りない感があるんだけど、物語の疾走感はタダ者じゃない。そしてちょっと駆け足で畳み掛けるラストも、若さ故って感じがします。
別作者になりきって書ける・・・辻村さんて、凄いなぁ。「物語のテーマは愛」もちゃんと織り込み、コウちゃんらしさ(と言っても彼の他の作品を私は読んではいないんだけど(^_^;))、トドメに環の解説って!
もっと、辻村さんの作品が読みたくなりますね。
作品間リンクとか、楽しみです。
(2016.03.26 読了)
この記事へのコメント
苗坊
コメントありがとうございました。ようやく読みました~!
チヨダ・コーキのデビュー作。だからかとても粗削りでこれからが楽しみだなと思わせる作品でした。
これから復讐劇が始まるのか!?と思ってからの終わり方にここで終わるの!?と私も思いました。
とどめの環の解説にもやられました。良かったですー!
水無月・R
この作品、読んだのはだいぶ前ですが、「作品の中の作家が書いたものを実際に出版」って、書き分けがどうなんだろう?という不安は、かなり最初の方で吹き飛ばされたことを思い出しました。
単純に面白かったのもあるし、他の作品との間での繋がりもあったので、とても良かったです。