衝撃のグロさで度肝を抜かれた『アリス殺し』の続編ということで、警戒心全開で読み始めた、本書『クララ殺し』。
前回ほどの惨殺シーン(笑)は出てこなかった代わりに、今回は同じ人物が何回も殺されるという展開に。
小林泰三さん、相変わらず容赦がないようで…。
たぶん本作は『アリス殺し』を読んでないと、わからない物語じゃないかなと思います。
前作では『不思議の国のアリス』の世界と地球がリンクしてましたが、今作では『くるみ割り人形』などホフマンという作家の作品群の登場人物たちが入り混じって暮らす「ホフマン世界(宇宙)」と地球がリンクしてることが、冒頭から判明。そのホフマン世界に蜥蜴のビルが迷い込んだことから、事態は進展し始めます。
ホフマン世界でビルが出会ったクララという美少女とドロッセルマイアーという男は、自分たちにも地球にアーヴァタールがいるという。「不思議の国」だけでなくさらに別の世界が地球とリンクしていることに驚き、目が覚めたビルのアーヴァタールである井森健は、大学の入り口でクララそっくりの少女・くららと遭遇、更に彼女のおじであり大学教授のドロッセルマイアーとも面会を果たす。井森はクララに殺してやるという脅迫状が届いて事故にあい、地球のくららも事故にあっているという事実を知らされ、両方の世界での事件の捜査をしろと命じられる。
で、捜査が始まる訳なんだけど、とにかく相変わらず地球じゃない側の世界の人間(人形とか動物を含む)は地球の人間からすると常識を外れてるし、なんせ「記憶操作」だの「人体改造」が横行してて、訳が分からなくなる。
それに輪をかけるのが「誰が誰のアーヴァタールであるか非常に怪しい」ということ。〈クララとくらら〉〈ドロッセルマイアー同士〉は外見そっくりだけど、なんだか奇妙な違和感がある。ホフマン世界でのドロッセルマイアーやコッペリウスの「記憶操作」「人体(人形)改造」がいとも簡単に行われることも、混乱に拍車をかける。しかし、この特技はちょっとズル過ぎじゃないですかねぇ。
ビル&井森が捜査を進めると、ある日井森の目の前でくららが殺され、井森も同時に殺されてしまう。が、全くの無傷で目覚めた井森。本体であるビルが死んでいないから、地球での死はリセットされるのだろうという推測の元、さらに捜査は進められる。
ビルの捜査を手伝うマドモアゼル・ド・スキュデリ、井森の捜査の相談相手となる新藤礼都なども加わり、余計に登場人物関係は複雑になる。
混乱を整理できないまま、息も絶え絶えになりつつ読み進めるうちに、井森は2度目3度目の殺害の憂き目にあう。
・・・あのさぁ井森君、もうちょっと警戒しようよ(-_-;)。同じ場所で2度目があったら、3度目もありそうなものじゃないかい?どうして君は頭がいいはずなのに、そんなところは間抜けなんだろうか。やっぱり、本体(笑)が蜥蜴のビルだからかねぇ(^^;)。
ホフマン世界で一同を介した場でスキュデリに犯行を暴かれた面々、分解され新しく作り直されるであろう人形、そして地球の世界での決着。結構な勢いで、片付けられちゃったけど、確かに筋は通ってるけど、まあその筋も「狂ってる世界」とのリンクと絡み合っちゃってるんで、どうなんだろう(笑)。
そして。
最後の最後に、井森君に声をかけてきた若い女性が。
彼は、彼女に「今回は展開が違う」と呟き、
「スナークは?」と問いかける。
彼女の答えは「ブージャムだった」。
~~世界はがらりと変わった~~(本文より引用)
・・・って!!!ちょっと待て、つまりそういうことなの?ていうか、どういうこと?!
「今回は」って、つまりこの話は『アリス~』の続編ではなく、その前日譚?あ、いや待て「今回は」って言ってるということは〈赤の王様が目覚めて世界が再起動した後の並行世界〉?
ビル(&井森)はこのアーヴァタール現象の要になる人物ということなのかしら!!
謎が謎を呼ぶ・・・・ですな。
ところで、『不思議の国のアリス』の次に選ばれた別世界が「ホフマン作品」というのは、どうなんでしょうねぇ。ホフマンはバレエの『くるみ割り人形』『コッペリア』の原作者であるということですけど、知名度的に全然違うし、バレエの筋書きと原作はちょっと違ったりするようで、あまり知られてない物語を原典にするのは、ちょっともったいない気がするんですよねぇ。
表紙の女の子は青いワンピースを着た金髪の少女で、クララときたら、私なんかは『アルプスの少女ハイジ』が出て来ちゃいましたけど。車いすに乗って「おじいさん」とともに登場する当たり、あっちのクララかと思いましたもん。誤認識させるつもりはなかったようですが。あっちの方が少なくとも日本国内では有名ですね(笑)。
さて、最後に私が言及した井森君の呟き「今回は展開が違う」。
これは、さらなる並行世界シリーズへの伏線なんでしょうか。
(2016.09.12 読了)
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