今まで万城目学さんといえば、『鴨川ホルモー』とか『偉大なるしゅららぼん』などで、ぶははは!なにそれ!?うぷぷぷ・・・と気持ちよく笑っちゃうイメージだったんですけど、本作『バベル九朔』はちょっとそこからは外れている作品です。
でも、面白くなかったわけではなく、後半は結構ぐいぐい読み進めまられした。
え?どうなっちゃうの?結局どっちが悪者なの?ていうか、悪者の定義はどこに?!
・・・いやそれよりカラス女怖ッッ!!!、・・・って。
そしてあのラストは・・・?!
いやいや、なんていうか、カラス女と彼女が従えるカラスたちがすごく怖かったのですよ。
実は高校生時代に、登校時に同じ場所で数回(別の日に)カラスに襲撃されたことがありまして、今でもその道は通れないぐらいに、カラスに対してはトラウマが・・・。
なので、カラス女が初めてサングラスを外した瞬間の描写は、ホントに「ギャッ!」って叫んでしまい、泣きそうになりました。
そんな状態なので、カラス女が登場するたびに怯えてしまうという、情けない読者だったのでありました(^^;)。
でも、それがあってもぐいぐい引き込まれる展開。
最初は、「小説家を目指して会社を辞めたけど、3年たっても賞選考の1次すら通らない」という主人公・九朔青年の無計画さというか夢追いっぷりに、ちょっとイラッとしてたんですよね~。
そんな九朔青年、母が祖父から相続したビル〈バベル九朔〉の管理人の仕事をこなしていたある日、黒づくめの不気味な女から、「扉はどこ?」と問い詰められる。サングラスを外した女の顔から現れたのは人間の目に非ず、恐怖を覚えた九朔青年は逃げ惑った末に異世界に紛れ込んでしまう。
そこで出会った、黒いワンピースを着た少女と天を衝くかのような塔を登っていくと、そこにあったのはバベル九朔ビルにかつて存在した店舗の数々。
そこで、九朔青年はカラス女や同行者の少女、店子の四条さんや祖父・大九朔たちから情報を得、2度にわたる〈願望世界〉との戦いに辛うじて勝ち、「バベルの真実」と向き合うことになる。
願望世界である、〈大型書店でのサイン会〉と〈文学賞受賞パーティー〉の幻想。「小説家を目指す者」としては至極真っ当なその願望から何とか脱出した九朔青年に、やっと好感が持てたような気がしますね(笑)。
ちゃんと現実を認識して、願望から脱出できたのだから、きっと彼の作風は幅が広がってると思います。
次々現れる、かつてバベル九朔で営業し、つぶれていった店舗たち。その夢や希望や失望を喰って成長し続けるバベル。カラス女に対する恐怖はありつつも、その説明に存在する信憑性。逆にあちこちからボロが出る、祖父・大九朔の言動。
で、ラストなんですけど、結局どういうことなんでしょうか(笑)。
私なりには〈九朔青年は、世界を救えそうだ・・・ただし、バベルもループする〉って感じなんですが。
とりあえず救えそうなんで、ハッピーエンドなんですかねぇ(笑)。
バベルを作り上げる力を持った、大九朔。彼の出身は、今は無きとある湖。彼はそこから絶大な力を得ており、湖が現実世界からなくなる際に、自分が描いた絵の中にそれを移したという。
おやおや?これは『しゅららぼん』の、琵琶湖じゃない湖の民の事じゃないでしょうか。
そこで、決して故郷に帰ることができなくなるほどの不義理をした蜜村さんって、何をやったんでしょう。その蜜村さんを焚き付けて、次から次へ失敗する店舗経営を続けさせた大九朔の狙いは、バベルの伸長。バベルが伸びれば伸びるほど、バベルの世界とその力は大きくなるわけで・・・。
大九朔の本当の狙いは、世界を制することだったりしたのかしら。
現在のバベルのテナントは、地下が千加子ママのスナック、1階がレコード屋の「レコ一」、2階が双見くんの居酒屋、3階が蜜村さんのレンタルスペース、4階が四条さんの探偵事務所、5階は九朔青年の住処兼管理人室で九朔青年のペンネームは「呉海九朔(ごかいきゅうさく)」。
こんな言葉(数字)遊びや、自分の祖父を「大九朔」と呼んでみたりする諧謔(反対に自分は小九朔だとちょっと思ってる)など、作品のあちこちにちりばめられていて、なるほど万城目さんの10周年記念作なんだなぁ、と。
~~言葉は人間への、最強の武器となり、盾となる~~(本文より引用)という言葉を、物語の最後にカラス女が口にするのだけど、それを痛感した九朔青年の新しい作品は、今までとは全く違った力を持つんだろうな…と思えます。だったら、いつか九朔青年は、バベルの清算を完璧に行えるんじゃないでしょうか・といっても、清算を実行するのは、たぶんカラス女(太陽の使い?)なんでしょうけど。
これから、万城目さんの作風はどうなっちゃうのかしら。できれば、ぶはぶはと笑い転げられるエンターテイメント系も書き続けてほしいですねぇ。大好きなんで。
(2016.09.18 読了)
この記事へのコメント
すずな
そして、同じくラストで「どういうこと?」と思いましたよー。なんかよく分からなかったです;;;
次作は、出来るならばウハウハ笑いながら読める作品だといいなぁと私も思います。
latifa
カラスに襲撃されてトラウマ、解ります!
やつら、本当に怖いですよね・・・。
しゅららぼんとの繋がりとか、ちゃんと記憶されていて、すごいです。
私はもう覚えてなくて、、、。
良く解らない処も多い小説でしたが、部分的に楽しめるパーツが転がっている?本でした^^
苗坊
私も烏に襲撃されたことがあります。
自転車に乗っていて、不意に目が合っちゃったんですよね。そしたら体当たりされました。怖かった…。
そう言うのもあってカラス女が怖かったのかもしれません^m^
しゅららぼんとの繋がりは私も水無月・Rさんに言われるまで気づきませんでした。流石です!
最後までよく分かりませんでしたが^^;
まあ色んな作風に挑戦すると良いよ。と上から目線で読み終えました。
でも次はやっぱりエンタメな作品を読みたいですね。
水無月・R
そうなんですよねぇ。
あれ~?どういうこと・・・?
結局何がどうなったの?ループ?ループなの?
と、私が迷子になっちゃいました(笑)。
次は、ゲラゲラ笑える方向性でお願いしたいですな(^^;)。
水無月・R
カラスは、ホント今でも怖いです。道端で遭遇したりすると、超挙動不審になって回れ右するレベルです(笑)。
全体的にはよくわからないんだけど、パーツパーツで楽しめた、うん、確かにそうですね♪
ぜひ今度はそれが全部つながってほしい(笑)。
水無月・R
おお、こちらにも襲撃され仲間が・・・!
何でですかねぇ、私も多分最初は、目があっちゃったからだったような気がします・・・。
万城目さんのエンタメ、楽しいですもんね。
次は、思いっきり笑いたいです♪