書評で「日本の女流幻想文学作家の先駆け」と紹介され興味を持ち、あまり深く考えずに図書館に予約を入れて、受け取った時の衝撃(笑)。
お・・・重い!分厚い!確実に凶器になる!
そんな外見的衝撃もさることながら、この一冊に描き込まれた数多の物語の濃厚さにも、大いに衝撃を受けたのでした。
山尾悠子さんの繰り広げる幻想世界をまとめ上げた『山尾悠子作品集成』。
いやぁ、ホントにすごい作品でした。
退廃だが、淫靡ではなく、砂のように乾いている、そんな印象。
いくつかの短編を読了して、思い浮かんだのは、ポンペイ。
全盛の一瞬に、永遠に時を止められてしまった都市の、濃密な気配。
一編一編が似ているようで、全く似ていない、それぞれの世界を確立させていて、毎度違う酩酊感に飽和状態になってしまい、1編ずつしか読めず、間に他の作品をを読んでいました。
数か月かけて読み終えて、幾多の世界が終焉を迎え、ざらざらした廃墟になって、それが端から砂になった崩れ落ちていくイメージが私の胸の中に浮かび、なかなか消えずにいました。
失われた古代、訪れることのない遠い未来、現代のようでいて、全く違ったルールの世界。
狂気と妄執。外来種の襲来。創造主との対立すら、必然のように語られる。
滅びる都市、そこから逃亡するものたち、すべては狂気に蝕まれ、いずれは跡形もなく存在を消すのだろう。
都を攻め落とすは、彼方より押し寄せた蛮族。目的は支配ではなく、平和の惰眠をむさぼっていた大陸の国々を蹂躙することのみ。都人たちはまともな抵抗も出来ず、炎上する都を逃げ惑うばかり、あっけなく都は殲滅される。
滅びてしまった国の記憶。草ひとつ生えぬ荒野を残して、姿を消す蛮族。亡国の主。
かつて隆盛を誇り、衰退した文化。いつか訪れるかもしれない遠い未来。今、ここと、背中合わせに存在するかもしれない、並行世界。
「遠近法」と「遠近法・補遺」が気に入りました。
円柱状の世界〈腸詰宇宙〉で、その真ん中を太陽や月、神や天人が天頂から降りて来ながら、回廊の住民たちには一切意に介さない超越、天頂を目指す探検隊が編成されてもいつまでもたどり着かず、最初から充満している狂気が、新たな狂気を生んで、いずれ終わる世界を延々と描く様子。
神は死に、宇宙の住民もいずれ滅びる、それを何故か知っている者が語る物語に、とても惹き込まれました。
「眠れる美女」の、綺羅々々しく描かれる美女の迎えるラストのおぞましさも、残酷だけれど必然の滅びを感じて、とても好きです。
「童話・支那風小夜曲集」。いくつもの支那風な掌編がとりとめなく集まっているのが、とても印象的。この中の「恋物語」が、素晴らしい。病気の子供に差し向けられた刺客。子供の病のうわごとに、少しずつ取り込まれて、自らを見失う刺客。翌朝、病気の子供を見舞う、王と王妃。刺客を差し向けたものの理由と独り言。
こんな風に美しくて破滅的で幻想的なシノワズリ(支那風・中華風)は、とても心惹かれるなぁと感じる掌編集でした。
熱に浮かされた夢のような、毎夜眠りを苛む続き物語の夢のような、おぞましさと美しさは確かにともに存在して。
未練も後悔もない、ただ〈そうである世界〉をいくつも描いた、幻想的な終焉の物語の数々。
レビューを書くために思い返しているだけで、感傷が募りすぎて、頭がちょっとクラクラしてきてしまいました。
(2016.12.14 読了)
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