江戸城無血開城の前夜。江戸城の女主である天璋院と和宮がそれぞれの侍女を連れて退去し、無人になったはずのその西丸大奥に、ひそと残った者が、5名いた。
それぞれの理由で『残り者』となった彼女たちの、長い長い夜と、それぞれの思い。
読んでいて、とても楽しかったです、朝井まかてさん!!
彼女たちの、自らの職務への矜持と幕府終焉への割り切れぬ想い、そして暖かく晴れやかな終章に、とても気持ち良い読書時間を過ごしました。
江戸城明け渡しと言えば、NHK大河ドラマ「篤姫」(タイトルあってるかしら?)で観たり、有吉佐和子さんの『和宮様御留』で読んだりしましたし、歴史の授業でも習いましたが、江戸城を退去する奥女中たちのことは、あまり考えたことがなかったです。
なので、りつ・お蛸・ちか・もみぢ・ふきの5人の、「城を出たところで、戻る実家もない、行きどころもない」という状況に、そういうこともあろうかと気づき、大きな出来事の裏にも「歴史に名も残らぬものの日々」があるのだなぁと、そういう物語を読めることに、喜びを感じましたね。
呉服之間で天璋院のお針子をしていた、りつ。呉服之間の片付けに見落としはなかったかと気になって、つい戻ってしまった。
御膳所で天璋院の食事を作っていた、お蛸。天璋院の愛猫を見かけたといい、天璋院が好んだ味噌の壺を抱えて、その姿を探していた。
御三乃間で自らの立身を願っていた、ちか。ただ一人でも籠城し、主たちが戻ってくるのを迎えるのだと、言い張っている。
和宮の呉服之間で、群を抜いた技術を持っていた、もみぢ。何故一人残っていたかは、なかなか口にしなかった。
天璋院付き御中臈、ふき。やはり、何故残っているかを言わないが、取りまとめ役として『残り者』たちを率いることとなる。
この5人のキャラクターの取り合わせも、素晴らしい。職位も違う、年も違う、出身(武家・町人・京者など)も違う女たちが、それぞれの個性をもって喋り合うときの、テンポの良さはとても気持ちがよかったですね。
それぞれが、大奥を自分の「家」と思い暮らしてきたが故の、突然の明け渡しへの忸怩たる思い、されども奥女中でしかない身で何ができるわけもなく。
歴史上の大きな出来事の中で、致し方ない状況に流されつつも、なんとか自分を貫こうとする彼女たちの矜持には背筋が正される思いがしました。
特にりつともみぢのお針子東西対決。どちらも自分の腕には自信があり、それぞれが自分の持ちうる技術を傾けて縫い上げた帷子の、仕上がりのあまりに大きな違い。素直にそれを認めて、相手を称賛できるりつの器の大きさ、お互いの針仕事への誇り高い思い、とても美しいものだと感じました。
「江戸城明け渡しをそっと見守りたい」というりつたちの思いを受け、ふきは皆を隠し間へ連れていく。
隠し間から城外へ移動の際の、官軍の兵卒と遭遇するというトラブルに対応したのは、武家の出であるふきとりつという流れが、自然であり、とても覚悟があってすっきりと胸のすく思いがしました。
それぞれが、それぞれの立場にあって、誇りをもって最善を尽くす。
私なぞ、大した立場ではないものの、それでも彼女たちのようにありたい、そうなれるようにしたいと、感じました。
無事に江戸城を後にした5人の、16年後が描かれた最終章が、とても素敵でした。
それぞれが懸命に生きてきたからこその、それぞれの幸せを得たたことが分かる終わり方が、本当によかった。心が温まる思いがして、気持ちよく読了できました。
朝井まかてさん、ほんとにいいですねぇ♪
(2017.03.23 読了)
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