桜庭一樹さんの描く〈少女〉は、強くて弱くて生き辛くて残酷だ。
『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』の後日譚2編を含む短編集『じごくゆきっ』は、いきなり心を削りにかかってきました。
暴力で支配された子供が、それでも愛を求めてもがく姿が、狂おしく描かれる。
そんな子供時代を、苦しみながら色々な欺瞞を抱え、歪んだまま一生懸命生き抜こうとする姿は、読んでいて、とてもつらい。
「逃げればいいのに」と言うのは簡単だけど、愛して欲しい相手からの虐待はそれを耐え抜くことで愛されるのではないか、自分が我慢すればいいだけなのでは…と縛られてしまう。
あぁ、もう、ホントにつらかったです。
支配される子供の物語でないものも、ありましたが、やはりそちらの印象の方が強くて…。
「暴君」
母親に殺されそうになった同級生を救った翡翠と紗沙羅。愚民は、夢から醒めてしまった。
「ビザール」
ヘンな女の子になりたかった。でももうなれないから、「普通」に変わっていく。
「A」
アイドルという「アイコンの神」を宿した老婆に接続された、システム。
「ロボトミー」
結婚した相手は、母親と深くつながっていて…。
「じごくゆきっ」
副担任・由美子ちゃんセンセと逃避行をする女子高生。「じごく」までいったら、そのあとは。
「ゴッドレス」
子供の頃から私を支配してきた父が、とある男と結婚しろといってきた。
「脂肪遊戯」
紗沙羅は夜中にとにかく食べる、食べる、食べる。儀式のように。脂肪が守ってくれるから。
『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』の後日譚は「暴君」と「脂肪遊戯」なんだけど…どこが後日譚だったんだろう…分からなかったです。
島根県益田市という場所は同じ?なのかな、でも共通する登場人物はいなかったと思います。
父親が娘を支配している…という点は同じだけど、『砂糖菓子~』のラストと本作のラストは違う。まだ未来ある終わり方という意味では、本作の方が少しだけ進化したってことなのかもしれません。
ただし、その進化のために紗沙羅は「神々しさ」を失って普通の女の子になってしまった。
そして、悪い夢から醒めるように、少年と少女は大人になってしまう。
それが、いいことなのか、悪い事なのかは、誰にも分らない。
「A」 が、よかったです。かつて一世を風靡した〈アイドル〉たち。一番最後の〈アイドル〉の元にとどまり続けた「アイコンの神」。神と死体を繋ぐシステム。そして、その異常と終焉。見送った広告代理店の男・五月雨が流した涙。
あの後、アイコンの神はどこへ行ったのでしょう。Aと共に消失して、この世界から「神」はいなくなってしまうのかもしれません。切ないけれど、仕方ない事かも。そういうふうに、世の中は変わっていってしまったのだから。
「ロボトミー」は…正直、気持ち悪かったです。なんでも母親の言いなり、母親と一心同体。自分というものを持っていないかのような・・・怖ろしいです。母親の支配欲は、娘の自由を奪い、そんなものがあることも気づかせない。そして、事故により記憶を維持できなくなってしまったユーノ。そんなユーノに「いじわる」をするタカノの仕返しの対象は、ユーノではなく義母だったのかもしれません。
「暴君」のラストで翡翠は自分が愚民であることを思い知らされ、泣くことしかできなかった。たぶん、彼女はこの後「輝ける紗沙羅」から少しずつ離れていったのだろうとおもいます。そのまま、愚民となっていくために。
そして「脂肪遊戯」のラストでは、その紗沙羅すら、「神々しさを失った普通の美しい女の子」になってしまう。
〈少女〉、と〈 〉で囲う特別な存在ではなく、普通の、ありふれた、その他大勢になってしまう。
それが切ない。
かつて、周りが全部敵で、生き辛くて、叫び出したいくらい自分の中で荒れ狂っていた〈少女〉は、いつの間にか消えてしまった。普通のありふれた大人になってしまった。あの頃の、繊細で力強くて、悲しくて弱かった生き物は、「脂肪」の代わりに何を被ってこんな風になってしまったのだろうと、切なくなってしまいました。
(2018.03.18 読了)
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この記事へのコメント
苗坊
なかなか読むのが辛い作品が多かったですが、しばらくゴシックシリーズしか読んでいなかったので、そういえば桜庭さんはこういう作品を書かれるんだったと思い出してきました^m^
「暴君」と「脂肪遊戯」が10年以上前に書かれた作品と知って驚きました。そして「砂糖菓子~」の後日談…分からなかったのが残念です^^;
読むのが辛い作品もありましたが、桜庭作品を堪能出来て良かったとも思いました。
水無月・R
苦しみながらも、それでも愛を求める子供たちが、辛かったです。
「ゴッドレス」なんて、もう大人になってるんだから、逃げればいいのに…と思いましたが、逃げることで父親から離れることを恐れてしまうんでしょうね。切ないです。
そう、『GOSICK』シリーズばかり読んでると忘れますが、こういう虐待される子供や人生泥沼系の物語もまた、桜庭さんの味なのでした。
辛かったけれど、それでもやっぱり、じっくり読んでしまいましたね。