中山七里さんの作品は〈悪辣弁護士・御子柴シリーズ〉しか読んだことがなかったのですが、本作『総理にされた男』は全く違った雰囲気で、ビックリしました。
ずっとハラハラしどおしで、なんだかすごい勢いで読んでしまいましたわ~。
ある日突然、拉致同然に連れ去られた売れない役者・加納慎策は、時の総理大臣・真垣統一郎の代役を務める羽目になるのだが、次々に襲い掛かる難題を対処するうちに、未曽有の事態に巻き込まれてしまう。
要略するとこういう話でTVドラマなんかでもありそうな感じなんですがね。
ま~とにかく次から次へと様々な問題が発生し、政治ど素人の慎策がいつ下手を打つかとビクビクし、ド素人だからこその発想の転換で切り抜けたり、真摯に国や国民を思い誠実に対処することで政治家たちの目を開かせたり、慎策の運の良さもあるけれど、人柄の良さというか誠実さ情の篤さがことをうまく運べたのかなぁと思いますね。
閣僚・野党・官僚(族議員)との丁々発止のやり取りは、ブレーンである官房長官・樽見や親友の経済学者・風間のレクチャーという土台はあるにしても、やっぱり役者の舞台度胸とセンスですねぇ。光ってます、ホント。これは、普通の人にはなかなかやりおおせることじゃない。
更に言えば、慎策は地頭がいいんだと思いますね。いかに風間が分かりやすく解説してくれたとしても、理解しかつ自分の言葉で発言するのはそう簡単に出来ることではないし、自分に相対する人物を分析しどう対処するのが一番いいかを瞬時に判断するなんてのも、よっぽどの観察力と度胸と判断力がなくては出来ないことですもの。
「VS閣僚」、「VS野党」ときて、「VS官僚」に入るなり、本当の首相・真垣が死亡。もう舞台から降りられなくなった慎策は、福島の被災地視察で復興予算の使われ方に義憤を感じ、官僚の勢力を削ぎ国会運営を正常化するために「内閣人事局法案」を可決させるために奔走し、辛くもそれを成し遂げるのだが。
「VSテロ」の冒頭で風間が自ら去った上に周到に国外へ追いやられ、そして、アルジェリア日本大使館に立て籠りテロが発生。未曽有の事態に対処するために苦悩する慎策と樽見。心労の末に倒れた樽見は帰らぬ人となる。ただ一人となってしまった慎策が下した決断は、自衛隊の特殊部隊を現場に送るというもの。もちろんそれは「VS国民」で「海外派兵への第一歩で、憲法9条違反だ」として支持率の低下を招き、総理大臣及び内閣の進退を問う世論が巻き起こる。記者会見で慎策が特殊部隊の派遣を含め「首相の信任」を国民の審判を問う。
そして「エピローグ」で、慎策は同棲していた女性に「ファーストレディーになってくれないか」と申し込む。
・・・あれ?それで、終わっちゃうの?!!
私が気になるのは「ファーストレディー問題」じゃなくて「国民の審判を経て真垣(慎策)内閣がこの国をどうしていくのか」「慎策が真垣として政治家として生きていく過程」のエピソードの方なんだけどな~。
多分、それを全部描こうとすると、あと2~3冊は必要な気もしますが・・・。
ド素人が首相になる、なんてはっきり言ってフィクションに他ならない事態ですが、それでもリアリティがありましたね。
慎策が疑問に思うことは、政治素人の読者である私の疑問であり、それに答え解説する展開は、政治や経済や外交の知識が身につきました。
でも、なにより慎策の国や国民を思う意志の強さに、感激したのですよ。
これぞ、血の通った政治であり、私たちの望む政治で、こうあってほしい世界・・・。
振り返って、私のいる現実の政界の面倒さ、理不尽さに、切なくなりました。
願わくば、慎策の語る青臭い思いの1割でも、現実世界の政治が良くなりますように。
(2020.01.12読了)
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