新聞の書評か何かで、「あ・・なんか私の好みに合いそう」と〈読みたい本リスト〉入りさせていた、上田早夕里さんの短編集・『夢みる葦笛』。
想像以上に、私の感傷的な嗜好に寄り添ってきました!!他の作品も読んでみたくなりますねぇ。
遠い未来で、並行世界で、はるかかなたの宇宙の先で、〈異なる存在〉と交流し影響を受ける〈ひと〉の物語たち。
ファンタジーとSFと・・・様々なものが見事に融合して、美しくも切ない世界を繰り広げていました。
「夢みる葦笛」「眼神(まながみ)」「完全なる脳髄」「石繭」「氷波(ひょうは)」「滑車の地」「プテロス」「楽園(パラディスス)」「上海フランス租界礽斉路(チジロ)三二〇号」「アステロイド・ツリーの彼方へ」
それぞれ全く違った世界観で、どれもが魅力的。
私の好きな、〈ひと〉と〈機械〉の狭間で揺れ動くものたちの物語、〈ひとならぬ生き物〉との交流を描いた物語、〈此処ではない何処か〉と繋がる物語。
優しく、厳しく、温かく、切なく、発達した未来の技術や文化に彩られながら、それでいてほのかに漂う郷愁。
本当に、どの物語も、素晴らしかったです。
SFのサイエンスな部分は、ちょっと難しかったですけど(笑)。
表題作「夢みる葦笛」の、〈日常〉に美しい音楽を奏でる〈異形のもの〉が現れ、実はそれが人間を変容させるものであるとわかるけれど、それを望む人もいて・・・という展開は、リアルで美しくてそれでいてゾッとしました。〈ひと〉であることに倦んで、〈ひとならぬもの〉に変わることを願うその気持ちは、表面的には分かるのですが、やはり拒否反応が・・・。
「滑車の地」で、〈ひとならぬ生き物〉であるリーアと偏見なく交流する技師・三村、リーアと同じ実験飛行の候補生である一翔が、塔の命運をリーアに委ねて、人を襲う生物との戦いに身を投じていく姿とリーアとの約束に、涙しました。リーアが新たな土地を見つけ、彼らが外敵に侵食されない新しい「約束の地」での暮らしが始まることを願ってやみません。
とある惑星の飛翔体生物である「プテロス」に片利共生して、移動や惑星の調査研究に利用している人類。
ずっと空を飛び続けるプテロスの地表墜落から、主人公・志雄はプテロスが飛び立て、母船からの救助が望める大石柱へとプテロスとともに移動する。共生してはいても、意思の疎通はなく、その感覚もお互いに理解できるわけではないプテロスと志雄の7日間の旅。
石柱の正体とプロテスの生態の一端を知った志雄が、取った行動。飛び立ったプテロス。
・・・こんな設定を思いつき、そしてこんなに静かで考察に満ち、それでいて読者をとらえて離さない物語に仕上げる上田さんの筆力の素晴らしさに、ただただため息が出ました。
機械技術の物語が多い中で少々異色だった、「眼神」。
地方の村で託宣の依り代に選ばれた従兄。その存在との関係を切る方法を探して都会に出た私は、5年の歳月を経て、故郷に戻る。
従兄の死、そして従兄から届いた手紙。
民俗学っぽい伝承、憑きもの落とし、その背後にあった別世界、この世界の変化、主人公の切ない決意。
哀しさの中に、筋の通った思いの強さ、優しさを感じて、たまらない気持ちになりました。
〈ひと〉と〈ひとならぬもの〉の間を流れる、優しさ、ためらい、切なさ、相互不理解・・・。
願わくば、互いを思い合えるような、優しい関係を作っていきたい。出来るだけフラットな視線で、互いを認め合い、尊重できるようになりたい。相手がどんな〈もの〉であっても。
そんな、思いが満ち溢れてくる物語たちでした。
(2020.07.17 読了)
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