『平家物語 犬王の巻』/古川日出男 ◎

平家犬王.png
いやぁ、えらい勢いで読了しちゃいましたよ!とにかく、面白かった!
古川日出男さん、異本・異説というのかな、そういうの上手ですねぇ。とても惹き込まれました!
〈正本とされる平家物語〉とは別の物語が繰り広げられ、それによって2人の芸術者の運命は広がって行く。
『平家物語 犬王の巻』で語られるのは、平家物語の異本物語そのものではなく、それを語るもの、それを能として舞うものの、因果の物語だったと思います。

都から来た者らに依頼された潜り手の親子は、海底から引き上げた神器によって、父は死に、息子は失明する。息子・五百友魚(いおのともな)は、父の死と自分の失明の理由を求めて、京へ上る途上でとある琵琶法師の弟子となり、琵琶法師の座の一員となる。

父は猿楽能で頭角を現し芸を極めたいという欲望により、秘術たる呪術を弄し魔物と取引をし、落人の郷から集められた「平家の物語」を知る琵琶法師たちを殺していく。魔物は琵琶法師たちの恨みを取り込み力をつけ、とうとう妻の腹に宿る子の容貌すら寄こせといい、それを受け入れた父は、当代きっての猿楽能者として栄える。どんな子が生まれたとしても、殺してはならぬ、生かさねばならぬという約定があったがゆえに、生まれ放ちにされた猿楽能者の子は、自らを犬王と名乗り、異形の体を包み隠して生きていく。
ある日、能の修業をする兄弟を端見し、それを一人修業し始めた犬王は、美しき舞を収めることによって、自分の足に刻み付けられた琵琶法師の恨みを解き放ち、異形だった足は正常な足に変化した。

そんな二人が、京のはずれで出会い、友となる。
犬王は次々に能曲を修め、我が身の呪いを解き放ち、舞台に上がるまでになり、その異形が変化する瞬間すら興行する。犬王の舞う「平家物語」と犬王自身の変貌の物語を、琵琶法師として街角で語る友魚は、「その物語は「座」の定める正本ではない」として、座を追放される。

それでも語り続け、舞い続けた友魚と犬王。
犬王は室町殿に命じられ、自らの逸脱した『平家物語』を封印した。
友魚は室町殿に「我が偏愛する犬王の怪異を語るでない」と命じられ、かつての将軍の墓の前へ行き精魂を込めて「犬王と平家物語」を謳いあげ、そして引致され、斬り殺される。
そして、犬王は死の迎が来た際に、斬り殺された友魚の魂と共に逝くのだ、といったという。

長々とあらすじを書きましたが、色々な因果が渦巻き合っていました。
友魚の事の発端は、神器。それを引き上げるための海図を作ったのは、平家の落人から聞き取りをしたものたち。
犬王の発端は、父の狂気。父は落人から平家の秘話を集めた法師たちを殺し、犬王から美しさを奪い穢さに変えた。
神器を欲したのは二つあった朝廷の、神器を持たぬ方。二つの朝廷を一つにまとめたのは、将軍家。
そして、将軍家は。『正しき平家物語』だけを認めるとして、異説を舞うことを犬王に禁じ、歌うことを友魚に禁じた。
上手く言えないのですが、因果は廻っているのだと感じました。

犬王が異形を解き放つために、鎮魂が必要であった、というのが美しくて良いですね。
もちろん、その舞だけではなく、友魚の語り合ってこその流布であったことも。まつろわぬものたち(この場合は平家落人の怨恨も含みます)を鎮魂する舞と言霊。全てを解き放ったのちに、時の為政者にその偉業を封殺されてしまうというのも、なんだか切なくて美しい。

そういえば。魚友の新たな座から元の座に戻った琵琶法師たちが、見せしめのように耳鼻を削がれたというのは「耳なし芳一」の縁起かもしれないと思いました。

なんだか、とりとめなく書き連ねてしまいました(笑)。
ただ、すごく勢い良く読める、切なく、美しく、哀れでありながらとても面白い作品だった、ということだけは言い切れますね!

(2020.09.13 読了)

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