
9年を隔てても読みたいシリーズであり、読み始めれば一気にその世界に戻って行けるシリーズです。はぁ・・・堪能しましたわぁ。
『碆霊の如き祀るもの』、怖ろしきものは、人か怪異か。どちらなんでしょうねぇ。
強羅地方(箱根ではない)の海沿いの村落で語り継がれる、3つの怪異と現在進行形の怪異。
それに関して担当編集者から相談を受けた刀城言耶は、自称秘書の祖父江偲と依頼者の大垣秀継とともに、現地入りする。
すると、次々とそれらの怪異になぞらえたかのような殺人事件が起き、彼らは警察と共にその事件を調べ始める。
混迷を極める捜査、不気味なほど静かな祭、閉鎖的なその村落で起こる血なまぐさい事件。
事件を読み解きながら、その背後にあった悲惨な村の過去が明らかになり、すべてが合理的解釈がなされた…はずだった。
警察には「解決には至らぬまま」と挨拶をして、言耶たちはその地を後にした。
翌朝、大垣秀継が村を訪れると、浜には「碆霊様祭」で流したはずの船が何十艘も打ち上げられ、村内には誰一人としておらず。
この一件は、怪談連続殺人事件・集団失踪事件として、戦後最大の未解決事件として、無気味な謎を残すこととなった。
おやおや。無気味な謎を残す羽目になった・・・という表現、微妙な引っ掛かりを感じてしまいますね。私の深読みのし過ぎかしら。
もしかすると、いつかまたこのシリーズのどこかで、この謎に関する謎の人物や事象が現れるのではないか・・・なんてね。
う~ん、ちょっとホラー感が薄まったうえに、謎解き要素がちょっとわかりづらかったかもしれないですねぇ。
様々な事件を起こしてでも隠したかった村の陰惨な真実、それを読み解けたのはやはり、言耶の推理洞察力及び怪異解釈・民俗学的な知識なんですけどね。
なんだろう、おどろおどろしさが薄かった?連続怪談殺人事件の状況の微妙な作り物感がイマイチだった?
アレ?そういえば、「竹林の魔」の多喜が、急激な飢餓感に襲われたことへの解釈はなかったような気がしますね。
本作は、偲がわ~わ~騒ぎすぎな感じがして、ちょっとうるさかったです。
言耶が沈思黙考&怪談探索で興奮して喋る、という両方の面を持ってるので、偲がそれを窘めたりうまくコントロールしたりというのを期待するのは、私の勝手な望みではあるのですが、いかがでしょうかね。それをするには、偲は若すぎるかしら。
なんてことを言いながら、やっぱりグイグイ惹き込まれて、後半はどんどん読み進めてしまいましたねぇ。
刀城言耶には、これからも怪異蒐集の旅に出かけ、その先で怪異にまつわる事件に巻き込まれ、それを推理を二転三転しながらも合理的解釈で解決し・・・、そして振り返って見てしまったものによる「・・・でも、本当に?」と読者を揺らしてほしいです。
久し振りにこのシリーズ読みましたが、あと2作出てるので、読むのが楽しみです。
実は私、途中で「もしかして・・・えぇぇ・・・それはちょっとヤバい」と頭を抱えた邪推がありました。
地名にある〈喰壊山(くえやま)〉、時々女の子が行方不明になること、海のかなたから訪れる〈唐食舟(からたぶね)〉・・・。
食物をたくさん載せて、村の飢饉を救う船。それに乗せられていたのは、行方不明の女の子だったのでは?つまり、カニバリズム(人喰)・・?確かに、それはマズいな。食べる壊す・・という文字表記も、なんだか不穏だし・・・。
ハイすみません、それはなんというか物語の読みすぎでした!さすがに、そこまでではなかったですね。
まあ、人身御供として海へ流した、というのも充分陰惨な過去だと思います。
竹細工の職人の家の子供、竹ちゃんが可愛かったですね。
集団失踪事件で彼も姿を消したことになるのですが、なんだか残念だなぁ。
あんなに溌溂として可愛らしい少年が、集団失踪の当事者として、苦難の生活をしなくてはいけなくなってしまうんですから。
今後の物語のどこかで、ちらりとでもその消息を知ることが出来たらいいのにな、なんて思ってしまいました。
私が読んだのは単行本なのですが、相変わらず表紙がまあ〈怖ろしい〉ですね。
血のように赤い海に浮かぶ顔の浮き出ている丸い石。目は閉じているのに、口は半開き。それに掛かる血しぶきのような黒いしぶき。
岩の上に手をかけ顔出すのは、海坊主ならぬ尼のような頭巾をかぶった生白い女の顔。うっすらと目を開き、口元は邪悪な微笑を湛え、こちらを真っ直ぐに見ている。
・・・これ、目を合わせたらアカンやつですよ。怖ッ!
(2021.08.01 読了)
水無月・Rの『◎◎の如き●●もの』シリーズ記事
『碆霊の如き祀るもの』 (本稿)
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