
書評で見かけて、「これは私の好みどストライクそうだわ!」と思った本書、『感応 グラン=ギニョル』 。
空木春宵さんというペンネームも雰囲気があって私好みだったりする~♪、ということでかなり期待を持って読み始めました。
いやいや、その期待を全く裏切らない、妖しく美しい退廃的な世界を、十分に堪能させていただきました。
5篇それぞれに、素晴らしかったです!!
「感応 グラン=ギニョル」
「瑕(=欠損)」のある少女たちを集め、残酷劇を繰り広げるその劇団に、「瑕一つなく完璧な美貌」を持つものの、心が欠けている代わりに人の心を読み他者に映し出すという能力を持った少女・無花果が連れてこられたことから、物語は始まる。
「地獄を縫い取る」
児童性愛者を誘き寄せる罠であるAIを制作しているジェーン。彼女は同僚のクロエの本当の狙いを知っており、最も効果的なタイミングで彼女を地獄に叩き落とした。その合間に挟まれる「地獄太夫」の物語。真の地獄太夫となったAIは、これから数多の「地獄」を再生することだろう。
「メタモルフォシスの龍」
恋に破れると女は蛇に男は蛙に変容する、という病魔が広まった世界で、恋い焦がれながら対岸の隔離島へ渡れない半蛇たちが群れ集まる街で暮らすテルミとルイ。身体改造を繰り返すテルミ、半蛇状態の進行するルイ、ルイが生を失い、テルミの真実が明らかになる。そして、テルミは龍となる。
「徒花物語」
戦時下の女学校に集められたのは、ゾンビ化する病気を発症した娘たち。彼女たちの間で回覧される物語。学校で教えられる病状の進行とは違うその物語から真実を暴き出した女生徒達は、自らの道を切り開くことを決意する。
「Rampo Sicks」
スチームパンクな世界観の浅草。美が断罪されるその街に暮らす少女・不見世は、街を治める諸妬姫の元に連れ去られ、美の判定を行うシステムや何故そんな事が行われるようになったかを知り、瞋る(いかる)。初編「感応 グラン=ギニョル」に登場した無花果が目覚めることにより、美の断罪というシステムは崩れ去る。
初編と終編が時を経た同じ浅草を描き、無花果の〈ーーーわたし達を憐れむな。〉の一言で、怖ろしい世界は幕を引く。新たにひらけた世界は、猥雑だが生き生きとし、それぞれが懸命に生きる世界であった。
いやはや、なんとも美しく退廃的で、傷を抉るような残酷さの中に、懸命に生きようとするその力強さが芯にある物語たちなのでしょうか。
美しく、欠けていて、変容し、評価し評価され、怒りや嫉妬の感情の荒波にさらわれ、それでいてしんと冷えた一言で世界を薙ぎ払う威力を持っていて・・・。
どの物語でも、〈少女〉たちがその繊細さ強さを存分に発揮させながら、物語を作り上げそしてその世界を崩壊させ、ある物語では再生させていきました。
幻想と退廃、耽美と残酷さ、生と死、美と醜、少女のお互いへの固執、無謀な傲慢と卑下、様々な要素が絡まり合い、斬り結び合い削り合いながらも複雑に織り上げられていく物語に、とても心奪われました。
「地獄を縫い取る」の〈地獄太夫〉のエピソードに、ゾワゾワしましたねぇ。太夫の前に現れる僧形の者。太夫の体に縫い取られる地獄。すべてを縫い取ったあと、僧は〈一人でも多くのものを地獄に堕としてくれ〉といい、自らも堕ちていった。そして太夫はAIとしてこれから多くの罪人を堕として行くのでしょう。
そして、冒頭の「身元不明の女性の変死」が誰のものだったのかが、判明するのですよ。
ただのニュースかと思いきや、その誰にもわからない変死の過程が、こんなに陰惨でストーリーに満ちていて、しかもこれは序章であって、これから先〈似て非なる死者〉が大量生産されるだろうという凄惨な物語が始まる予兆に過ぎないという・・・。
ゾッとするのに、すっとする。清らかではないけれど、清々する。でも、そう思う私は、正しいの?その性指向がないだけで、免れられるの?なんてことに気づいてしまったら、本当に怖くなりますね。ふふふ。
「メタモルフォシスの龍」のテルミの真実がわかった時、切なくなりましたね。半蛇になりたかったのに、それすら許されず、そのため身体改造を続けて自分を騙して、騙して、でも騙しきれなくて。人類に深く根を下ろしてしまった病を駆逐すること出来ない以上、テルミのような苦しみを持つものがもしかすると、増えてくるのかもしれません。そんな物語も読んでみたい気がします。
さて、ざっと調べたところ、空木さんの単著はこの『感応 グラン=ギニョル』だけのようなのですが、他の作品も読んでみたくなりましたね~。
アンソロジーの罠(笑)にちょっと腰が引けつつも、何冊かが〈読みたい本リスト〉入りしました。楽しみです。
(2021.12.08 読了)
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