
囲碁・チェッカー・麻雀・古代チェス・将棋・・・、これらの盤上遊戯それぞれを極めたプレイヤーたちの、極めたが故に見えてくる深淵な世界を描いた、短編集『盤上の夜』 。
本作は宮内悠介さんの代表作だということで、以前から気になっていました。
ただ、ちょっと、私には難しかった・・・。というのもワタクシ、こういった盤上遊戯が非常に苦手で、唯一なんとか遊べるゲームはオセロだけど、とんでもなく弱い・・・という(-_-;)。
そんなわけで、実はどのゲームの物語もルールが全くわからないまま読んでおりました(笑)。
でも、物語のテーマはゲーム上の頭脳戦ではなく、プレイヤーたちがそのゲームを極めているが故の精神の拡がり、盤上の駒や牌その動きで互いに語り合う様子、凡人には見えないその広く深く高い領域での彼らを少しでも伝わるようにと描写することにあったのではないかと思ってます。
とは言え、やっぱり難しかったですけどね~。
真に彼らの精神を理解できたかというと、彼らの立っているその場所にはたどり着けず、ニュアンスでなんとなく理解できたかな~という感じです。残念なことに。
5つの盤上遊戯について取材や調査を進めているジャーナリスト「わたし」を語り手に、プレイヤーたちの高みに至れない我々と同様の「わたし」の視点でそれぞれの物語が描かれ、最終章「原爆の局」で再び初章「盤上の夜」の取材対象者である灰原由宇に対象が帰ってくるという物語構造が、素晴らしかったです。
語る「わたし」は、もちろんある程度のルールや戦法の知識があり、究極のプレイヤーたちとも会話ができるレベルなのですが、それでもわたしのような凡人の側の気持ちも滲む面があり、なんだか安心して読めました。
なんせルールはわからない、複雑なゲーム展開やそれを操る突き抜けた才能の持ち主たちの思考力についていけない、という状態だったのですが・・・。
その中で、心惹かれたのが「象を飛ばした王子」でした。
国を捨てた偉大すぎる父ブッダ・かつての親友の侵略・己が国家の存亡・自分にしか見えない世界の闇・・・、凡人ではなかったけれど、それでも苦悩の尽きなかった古代インド小国の王子・ラーフラ。
自分の持つ全てを込めて作り上げたその盤上遊戯を、争いを好む他国の王たちに献上することで、実際の争いを遊戯での争いに切り替えさせたのではないかという逸話への繋がり方が、切なくも美しかったです。
どの物語にも、凡人には到達し得ないそのプレイヤーたちがゲームに対して真摯に生き、そして苦悩しながらも極めて行く姿が、清冽に描かれていて、非常に心打たれました。
(2021.12.20 読了)
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