『彼岸花が咲く島』/李琴峰 ◎

久しぶりに、芥川賞受賞作(しかも新しい(2021年)作品)を読みました。
芥川賞作品って純文学なので、ちょっと苦手意識があったのですが、この『彼岸花が咲く島』 はとても読みやすかったです。
著者李琴峰さんは、台湾生まれの日中翻訳者でもあるそうですが、小説もたくさん書いてるそうです。お名前は時々見かけたことがあったような気がしますが、私は今まで読んだことのない作家さんですね。
設定が面白く、展開も丁寧かつ順調で、スイスイ読めました。

我々読者の知る日本語とは違う〈ニホン語〉と、女性にだけ密かに受け継がれる〈女語〉が使われる南国の離島。
そこに流れ着いた少女・宇美には記憶がなかった。宇美と宇美を助けた少女・游娜(ヨナ)、そして同じく島の少年・拓慈(タツ)。
島の歴史を担うのは、ノロと呼ばれる〈女語〉に精通した女性たちのみ。男には〈女語〉や島の歴史を教えることは禁じられている。
でも、自分たちが何であるかを知りたい拓慈は、密かに〈女語〉を習得しようとしている・・・。

宇美が島に辿り着く前に使っていた言語〈ひのもとことば〉。なぜ島の歴史は、ノロだけに受け継がれるのか。年に一度、様々な恩恵物をもたらす〈ニライカナイ〉とは。島が他者との交流を拒んでいる理由、秘められた歴史、そして3人の若者たちの成長と苦悩と決断。解決はもたらされていないけれど、未来はまだ希望が持てそうなラストが清々しく、とてもよかったです。

ノロになった宇美と游奈に大ノロが語る、歴史の真実が、非常に重かったです。
〈ひのもとぐに〉に蔓延した流行り病。病の原因が国外からもたらされたと知った〈ひのもとぐに〉の鎖国と、その強硬で残虐な方法。〈ひのもとぐに〉から追い出された人々が、たどり着いた島で行った虐殺。そして、自らが作った歴史のおぞましさに恐怖し、以後の歴史を女性たちに引き渡した男たち。
まあ、〈男〉だけが悪いわけではないと思います。女に歴史を引き渡して、それで解決、というのはちょっと短絡すぎるのかな・・・というきはしますね。もちろん、反省の意味を込めて、争いのない世界を作り上げたことは、称賛に値すると思うのですが。
それが出来たのは、正直言って〈小さな島という共同体〉だったからでしょうね。

宇美にだけ大ノロが明かした、大ノロの過去もなんとも苦しいものでした。
大ノロも宇美と同様に〈ひのもとぐに〉から放逐された子供で、なんとか島に漂着したあと、〈ひのもとぐに〉から追っ手がかかり、あわや〈ひのもとぐに〉に島は侵略されそうになったものの、偶然訪れた台風に〈ひのもとぐに〉の船は沈没しかけ、ほうほうの体で去っていったという。
いつまた、〈ひのもとぐに〉からの侵略があるかわからない。また、なんとか交易が成り立っている〈タイワン〉との関係も、いつ変化するとも限らない。
そんな危うい均衡の中に、島はあるのだという。

それでも、宇美と游奈が〈女だけに許された歴史〉を拓慈に教え、男もノロになれるように変えていこうと決断するラストを迎えて、ホッとしました。男を排除することが、解決になるとは、私には思えなかったからです。
人材の少ない島で、男であるというだけで、島を守り世界をより良い方向に変えていくことから除外するのは、なんだかもったいないし、今までの歴史を踏まえてきちんと教育することで、男の暴力性を緩和することができるのではないかと思えたのです。だいたい、〈男だ女だ〉というレッテル付で簡単に解決することではないでしょうしね。

国というものの存在、ジェンダーの問題、流行り病、極端に排他的な傾向、戦争と平和、様々な要素が含まれる、深い物語でした。
でも、若者の成長・苦悩・決断を描いたこと、舞台が南国の穏やかな島であったこと、島の文化が共助を基礎にした共同体であることなど、優しい気持ちで読めるのが、良かったです。

流行り病は2022年現在でも世界に蔓延している〈コロナウィルス・パンデミック〉を思い起こさせるし、侵略戦争は〈ロシアのウクライナ侵攻〉と重なってしまうし、なんというか非常にタイムリーというか、読んでて辛く、自分には解決できない世界的な問題が描かれていました。
私には、〈平和で平穏な世界〉を願うことしか出来ませんが、この物語を読むことで、更にその思いが強くなりました。
私達の世界に、平和と平穏が訪れますようにと、願って止みません。

(2022.03.13 読了)

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