
本書『魔偶の如き齎すもの』(まぐうのごときもたらすもの)は、三津田信三さんの〈刀城言耶『◎◎の如き●●もの』シリーズ〉の中短編集。
長編じゃないせいか、ちょっといつもの〈土着民俗系ホラーミステリー〉の中の〈土着〉色は薄めだったかな。
どれも「長年に渡る因縁と怨念が云々」というストーリーではなく、短い期間の出来事が怪異と絡まる謎解きだったからかもしれないですね。
とはいえ、推理を二転三転させながら、最後には合理的解釈を提示して事件を解決、・・・したはずなのに「でも・・・本当に?」と引っかかりが発生してしまうラストという展開は健在で、読んでいて楽しかったです。
「妖服の如き切るもの」 (ようふくのごとききるもの)
坂の上下にある家で起こる連続殺人事件。凶器の移動はどう行われたのか?
「巫死の如き甦るもの」 (ふしのごときよみがえるもの)
戦後間もない村で生まれたコミューンで失踪事件が起き。
「獣家の如き吸うもの」 (けものやのごときすうもの)
一つの家のはずなのに平屋と2階建てに見える。
「魔偶の如き齎すもの」
手に入れれば福と禍を齎す土偶。密室のはずの「卍堂」での、撲殺未遂事件の犯人は?
実を言うと、「妖服~」と「獣家~」のトリックは、読んでるうちに気づきました。あ~これかな~と見当をつけ、謎解きで正解だったときは喜んだんですけどね。
例によって最後の最後で「でも・・・本当に?」とか「あの現象は結局なんだったのか?」という不可解さは残され、密かに戦慄する言耶・・・なんて終わり方をしたら、やっぱり怖いじゃないですか~!!
合理的解釈はできる。それで事件は解決する。だけど・・・謎は実はその後も・・・とか、いやホント勘弁してほしい(と言いつつ、絶対このシリーズやめられない私)。
さて、中編の「魔偶の如き齎すもの」、祖父江偲登場ですね。
まあ、色々あって本当の登場はだいぶあとなんですが、すっかり騙されちゃいました。
違和感は、あったんですよ?でも最初の頃は遠慮というか控えめにしてたんだな~って、勝手に思ったんですよねぇ。違った(笑)。
密室のはずの卍堂、4人の容疑者、それぞれに動機や方法を当て嵌めながらも、「そうではありません」とすぐにそれを翻し、最終的に名指しした犯人の本当の姿!これは、思っても見なかった。
まあ、若さゆえの言耶の脇の甘さが引き起こした事件と言えなくもないですけど、まあとりあえず被害者は脳震盪程度で済んでよかったです。
そして言耶、自分で伏線張っちゃってたのね(笑)。
そりゃ、偲も張り切っちゃうよねぇ。言耶の作品に自分が登場する、って確約を得たようなものですもん。どんどん、不可思議事件を持ち込むわけですよ。
そして、満を持してこの作品「魔偶の如き齎すもの」が描かれた、というわけですねぇ・・・作中メタ構造の中のメタ?というか、なかなか面白いラストでした。
4編ともに、怖いなぁと思いつつも、興味深く読みました。
ただやっぱり、三津田さんならじっくりゾワゾワ怖い因縁系を読みたい私(←怖いくせに・・・)。
中短編集もいいけど、長編でみぞおち掴まれるぐらいの土着民俗系ホラーミステリー、また読みたいですね。
もう次の『忌名の如き贄るもの』が出てるのは知ってるので、楽しみにしつつ私の〈読みたい本リスト〉での順番待ち中です。
本作単行本の表紙を見たとき何故か、「楳図かずお・・・?」と思ってしまいました。なぜだろう・・・。
珊瑚色(黄色がちのピンク)の服を着た女性が上下反転して写っているその姿、多少目つきに不穏さはあるものの・・・いやまて、上下の女性の顔立ちは微妙に違わないか?逆さまになってる方の表情は、不快感をあらわにしている気がする。それと、飛び交う3匹の蛾(蛾を見るとサイコパスを想像してしまう私は、最近読んだ本に影響受けすぎ?)。バックに歪む、骸骨のような鬼面のような線画。
ぱっと見は、楳図かずおみたいで、あまり今までの刀城言耶シリーズの表紙のような「よくよく見たらアカンやつ」と思えなかったんですが、やっぱりなんだか不穏ですなぁ。怖いですなぁ。
(2022.04.15 読了)
水無月・Rの『◎◎の如き●●もの』シリーズ記事
『魔偶の如き齎すもの』 (本稿)
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