『恐怖小説 キリカ』/澤村伊智 ◎

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とりあえず夏になったしホラーでも読むかな~、となるとやっぱり澤村伊智さんだよねぇ、でも『ぜんしゅの跫』は予約の順番がまだ回ってこないんだよなぁ、じゃあ比嘉姉妹シリーズ以外でどうかな?ということで、本書『恐怖小説 キリカ』を選んだのだけど。
あばばばば・・・、これはアカンやつやん。絶対、アカンやつやん。色んな意味で、ホラーでした(笑)。

とりあえず、読み終えて、「これ、ネットにレビュー上げて大丈夫なんだろうか」と思ってしまった私を、思い切り笑ってやって下さいまし。
いや、フィクションなのは分かってますよ?
でも、でもですね。新人作家・澤村伊智が『ぼぎわん』でホラー大賞取って、次作が『ずうのめの人形』で、3作目は別の出版社から『恐怖小説 キリカ』って、まんまじゃないですか。
こういう行動原理で、殺人を犯す人間がいるかもしれないという、恐怖。しかも「その後ー文庫版あとがきにかえて」まで、気が抜けないんですよ。この小説を間違った解釈をして行動する者まで出てきて、もしかするとそれは私が書いてるレビューに過剰反応するかも知れない・・・とかね、思っちゃうわけですよ。いや、そんなわけないですけど。

ある意味、「小説家のイメージを利用して、フェイクドキュメンタリーを書いてはどうかという講談社の提案」という設定、すごいですよね。そして、その展開を小説化したものを、この世に出してしまった講談社、恐るべし。ですよねぇ。
ホントに〈リアル澤村さん〉は、講談社にそう言われたのかしら。
その発想をここまで膨らませてひねりを利かせて描いてる澤村さん、やっぱりオソロシイ作家さんですよ。

第1章では『ミザリー』的展開かと思ってたら、第2章で多重人格の主人格が殺人衝動を抑えられない破綻者で、従人格が自分でそれを押し留められないなら他者の手を借りようという告白文で、第3章がその告白分を受け取った男が脅されて書き上げた小説、エピローグがあとがき代わりで著者のほくそ笑みが入っている上に、文庫版あとがき代わりに更なるほくそ笑みが加わるという、いやはやもう、勘弁してくれ、ごめんなさい、ホントにすみませんでしたぁぁ・・・と、唸っちゃいました。

ミザリーな展開で1冊終わると思ってたら、それは単に引き鉄に過ぎなくて、被害にあっててたはずの作家が実は殺人者でしかも多重人格で・・・、化け物も怖いけど、人間も怖いのですよ。
しかも、まあ殺人シーンのグロいこと、グロいこと。それがまた、淡々と数を重ねられる上に、見ず知らずの人間から知人友人に及ぶというのも、非常にホラーですよね。
こんなに雑に殺しまくって、全然足がつかないのか?という疑問はあるんですけど。日本の警察の捜査力って、こんなに低くはないでしょ、さすがに。まあ、その辺で(ああ、フィクションだな、よかった~)と思ったりもしました。

しかし、作者の意図と違う解釈をしたり、酷評レビューを書いたりすると、こんな末路が待ってるんですか・・・怖いですなぁ。
いつも思うんですけどね、私、すごく雑魚キャラなんですよ、自分で言うのもナンですが。
多分、この小説の世界に私がいたら、早々に殺されてしまうんじゃないかと思います。ああ、フィクションで良かった・・・。
え?フィクションですよね?ねぇ?!フィクションですよね!!

(2022.07.22 読了)

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