『ユニコーン ~ジョルジュ・サンドの遺言~』/原田マハ ◯

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女流作家・ジョルジュ・サンドが疫病を避けるため過ごした、ベリー地方のブサック城。
その壁に掛かっていた「貴婦人と一角獣」という連作タピスリーは、彼女を魅了した。
夢の中で、貴婦人はサンドに請い願う。「私をここから連れ出して」と。
それを果たせなかったサンドの物語。
この『ユニコーン ~ジョルジュ・サンドの遺言~』という物語は、そんな風に要約できてしまう、短い物語です。
私が知っている原田マハさんの絵画にまつわる、複雑で因縁の深い物語とはちょっと一線を画しているような・・・。

だからといって、面白くなかったわけではないのですが、どうも終わり方が中途半端で。
サンドがブサック城に滞在したのも、そこに「貴婦人と一角獣」シリーズがあったのも史実だし、そのシリーズが修復されてクリュニー中世美術館に所蔵されていることも事実。
その史実や事実をどのように膨らませて物語にするか、ということが物語の面白さになると思うのですが・・・。

この物語の主人公をサンドにしてしまったがゆえに、何故タピスリーが「ここから連れ出して」と言ったのか(このまま城で朽ちるのを避けたかったのでしょうけれど)、ブサック城が人手に渡ったあとどういう変遷を辿ったのか、ということが描かれなかったのが、残念でした。
サンドに幻想(夢)を見せてしまうぐらい魅力的なタピスリーを、美術館館長のソムラールがどのようにして手に入れ、修復し、その過程で彼もきっと見たであろう幻想(夢)がどんなものだったのか・・・なんて物語があったら良かったのにな、と思ったのでした。

この物語のテーマとなったタピスリー「貴婦人と一角獣」は、どこかで見たことがある気がします(もちろん画像で)。
朱色の背景に、鮮やかに描かれる貴婦人と動植物たちの気品ある姿は、見ているだけで清々しく凛とした力強さを感じますね。
美しい。メインとなる貴婦人や一角獣やライオンだけでなく、小さく描かれている動物の繊細な愛らしさ、植物の装飾的でありながら自然な姿、これを絵画ではなくタピスリー(織物)として仕上げているというのは、非常に技巧的で芸術性も兼ね備えた、素晴らしい作品だなぁと感じます。
多分私も、これらを実際に目の前にしたら、一瞬で目と心を奪われて立ち尽くしてしまうだろうなと思いました。

そんな美しく魅力的なタピスリーが、連作でシリーズで存在するということを世に知らしめたと言う意味でも、この物語は素晴らしいと思います。実際、存在することは知っていたけれど、連作であることも、こんなにたくさんの動植物が描かれていることも、私は知りませんでしたから。
一つだけ、この連作タピスリーに疑問を持つとしたら、「ライオンの立場は?」ですね(笑)。
タイトルは「貴婦人と一角獣」ですが、ライオンもメインメンバーなのにタイトルに入れてもらえてない。ちょっと、可哀想だなと思いました(笑)。

(2022.08.16 読了)

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