『魚舟・獣舟』/上田早夕里 ◎

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遠い遠い未来で、分岐した先の世界で、〈ひと〉はどこへ行こうとしているのか。なにを求めているのか。
いや、〈ひと〉だけではない。すでに〈ひと〉と〈人工生命〉や〈動植物〉や〈妖怪〉の境界が曖昧になったこれらの世界で。
上田早夕里さんの描く、ディストピア感漂う世界の物語が、6編。
狂おしいほど没頭し、胸の痛みを実際に感じながら、『魚舟・獣舟』のそれぞれの物語を、非常に堪能いたしました。

「魚舟・獣舟」
自分の双子の片割れが魚舟となり、魚舟になれなかったものは獣舟となって、陸に上がろうとする。人類がそんな進化を遂げた世界で。
「くさびらの道」
あらゆる生物に寄生する茸が蔓延し、寄生され死亡した人間は哀しく恐ろしいものに姿を変えるという。
「饗応」
出張の時に、いつも泊まるホテル。別館に案内された貴幸は、風呂に入り夕食を摂る段になって、飼い猫と再会する。
「真朱の町」
追われて逃げ込んだ町は、妖怪と人間が共に存在する町であった。連れていた子供を攫われた邦雄は妖怪の手を借りて、取り戻そうとする。
「ブルーグラス」
思い出を置いてきた場所が、環境保全のため閉鎖される予定地になった。
「小鳥の墓」
女を数多く殺して広域手配されている男の少年時代。教育実験都市の闇の不文律。

一行ずつ、あらすじのようなものを書いたけれど、そんな簡単に語れる物語たちではありません。
えぐさのない苦味のようなものがありました。読後感に切なさや苦さはあるのに一抹の清涼感があって、どの物語にも、かすかな虚しさと諦念が漂っている気がしました。
登場人物たちにはどうすることもできない世界の中で、ままならないながらも懸命に生き、それでも明確に救われる未来は見えてこない。
足掻いても報われないだろうという予感しかないのに、それでも彼らには生きていて欲しいと願ってしまいました。
そんなふうに思ってしまう自分を心苦しく思い、胸を痛めながら、それでも。

一番いいなと思ったのは「饗応」
10ページにも満たない短い物語の中に、美しい庭園風景や清々しい露天風呂の体験と「外」の現実の対比、貴幸の存在意義と黄泉平坂の例え、いずれ世界が巻き込まれすべてがひっくり返ってしまう未来、様々な要素が鮮やかに描かれ、そして虚しく収束する構成の見事さが、素晴らしかったと思います。「外」で起こっていることは醜いのに、物語が美しすぎて、泣きそうになってしまいました。

「魚舟・獣舟」のラストが、とても恐ろしかったです。
同朋であるはずの「獣舟」が、自ら生き延びるために進化・変異したその姿。すでにそれは、〈人類〉を生存競争の相手とし攻め入ってくる形態を持っていた。これから人類は、〈元・同朋〉と戦い殲滅し合う、虚しくも悲しい歴史を歩むことになるのだろうと思うと、とても悲しくなりました。避けようのない、必然の結果だったのだろうけれど。

上田さんの作品には、〈異形の生命〉や〈未来のテクノロジー〉などが多く出てきます。
超絶文系人間のくせにそういったものが大好きで、それらに優しさや哀しさなどの情緒を読み取ってしまう私にとって、もっともっと読んでみたい作家さんですね。シリーズ化されている作品もあるそうなので、少しずつ楽しんでいきたいと思います。

(2022.10.15 読了)

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