前作『不思議の国の少女たち』で重要な登場人物であった双子のジャックとジリアンが、本作『トランクの中に行った双子』の主人公。
彼女らがどのようにして不思議の国へたどり着き、そこでどのように生き延び、そしてどのようにして現実世界に戻ってきたかが描かれる。
ショーニン・マグワイアさんのファンタジー世界は、甘っちょろさのない厳しさの中に、希望と絶望が存在していました。
子供を、自分のステータスを飾る一つの〈モノ〉のように扱っていた夫婦に抑圧されてきた双子の姉妹、ジャクリーンとジリアン。
ある日彼女らは、屋根裏部屋にあったトランクの中に階段を見つけ、そこから〈異世界〉である「荒野」に足を踏み入れる。
姉のジャクリーンはマッド・サイエンティストの弟子の〈ジャック〉になり、妹のジリアンは荒野を支配する吸血鬼の養い子の〈ジル〉となる。
時は流れ、本物の吸血鬼になることを望んだジルは姉が愛した村娘・アレクシスを惨殺し、吸血鬼に見放され、村人たちに追われる。ジャックはジルの手を取り、逃走の果てに〈現実世界〉に戻ることになる。
親が子どもたちを自分の装飾品のようにし、1人は「きれいな女の子」もう1人は「男の子にも負けないぐらい活発な子」として、期待という名の押し付けで、逆らうことも許さない育て方をしてたっていうのが、腹立たしくてならなかったですね。
生殺与奪を握っている親からそんな抑圧を受け、それでも認められたいと反抗することも出来なかった小さな女の子2人を思うと、切ないです。
そんな彼女らが、厳しい「荒野」の地で、それぞれ望んだ〈自分〉を手に入れ、それぞれ生きていくために必死に突き進んでいった。
男の子のように扱われてきたジルが、吸血鬼の城でお姫様のように着飾って暮らせるものの、吸血鬼の独占欲から他者との関わりを許されず、ひたすら吸血鬼の愛着を求めるだけの生き方をするようになり、逆にお飾り人形のように育てられてきたジャックが、マッド・サイエンティストの弟子となって泥や汚れも扱えるようになりながらも、潔癖症だけは治らず手袋を外せずにいたり、恋人(女性)が出来たりと、彼女らは変わっていく。
これは、成長なのだろうか。
結果、ジャックとジルは望まない扉を開いて、現実世界に帰る。
帰った〈家〉には、父母だけでなく、幼い男の子(弟)がいた。
あの父母の性格からして、姿を消した双子のことはすぐに見切りをつけ、新たな〈装飾品〉としての息子を作ったのだろう。
戻ってきた娘たちは、この夫婦にとって、邪魔者でしかないだろう。
そんな絶望を抱えて、彼女らはあの〈寄宿学校〉へ行ったのだと思うと、切ないですね。
だからといって、前作のような事件を起こしていいという理由にはならないですが。
望まぬ現実世界に帰ってきた双子、そこで更に拒否されて学校へ送り込まれ、学校で事件を起こして〈荒野〉へ帰る。
その先を知りたくなりました。
ただ、残念ながら「訳者あとがき」にある情報から考えるに、3部作の最終巻はその話ではなさそう。
う~ん、残念。
(2022.10.21 読了)
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