『マジカルグランマ』/柚木麻子 ◯

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表紙のぱっと見ファンシーなおばあちゃまからは想像もつかない、足掻いてもがいて失敗してそれでも自分の欲に忠実になることに気付いた老婦人の活躍、面白かったです。
『マジカルグランマ』っていうタイトルの〈マジカル〉にそんな意味があるとは知らなくて、意外な展開に胸がざわつきましたねぇ。
柚木麻子さんの描く〈後期高齢者〉、興味深かったです。

黄色いステッキを持って窓に座ってる、きれいな白髪の老婦人という表紙、初見では優しくて可愛いおばあちゃんに見えるんですよ。
ところがね、読了して見直すとあらビックリ、主人公・正子が飽くなき自己実現欲と活力で不敵な笑みを浮かべてるようにも見えるんです。
それに気付いて、ニヤニヤしちゃいましたね~。

結婚前は映画女優だった柏葉正子は、70代に入ってシニア俳優専門の芸能事務所に所属し、髪を綺麗な銀髪に整え、CMに大抜擢され、注目の人となる。だが、家庭内別居していた夫が死亡し、その「お別れの会」の際の発言が炎上して世間から大バッシングを受け、芸能事務所も契約解除されてしまう。
夫の大ファンだという若い娘・杏奈が押しかけてきて、なし崩しに一緒に暮らすうちに、売りたいと思っていた豪邸は売れず、生活のために家の中のものをメルカリで売り捌く日々。
ある日、杏奈とディズニーランドを訪れ、ホーンテッドマンションに着想を得て「自宅をお化け屋敷にすること」を思いつき、杏奈や近所の人々や息子たちの協力を得て、お化け屋敷運営を始める・・・。

最初は「なんで夫のお別れの会の時に、あんな発言しちゃうのかなぁ、考えが足りない人だなぁ」と、イライラしちゃったんですよね。
その後の対応も、事務所を頼ればいいのに勝手なことやったり、外で杏奈と取っ組み合いをしたり(それを動画に撮られて更に炎上)。どうにも世間知らずな、自分勝手な人なんだよなぁ・・・って思うと、つい、ねぇ。
取り憑かれたようにメルカリで何でも売り払っちゃうのも、どうかと思ったし。不要な食器や装飾品なんかはいいとして、鏡やテーブルや椅子、照明器具まで売り払ってしまうのは、なんだかヤケになってる感じがして心配になりました。あと、収益が年間20万を超えると雑所得として課税されるけど、そのへんの処理とか大丈夫なのか?っていう余計なお世話も(笑)。
自宅をお化け屋敷化する計画も、営業許可とか事故が起こったときの責任のこととか、大丈夫なのかなぁ・・・って勝手にビクビクしてました。自宅に出入りする近所の主婦・明美が以前はプランナーをしていたことから、そのへんの実務は結構安心できる展開になって、ちょっとご都合主義っぽいなと思いつつ、安心できてよかったです。

なんて思ってたら、少女時代の親友・陽子を介護施設から勝手に連れ出してきてしまったり、そのせいでお化け屋敷の営業がダメになる日があったり、・・・う~ん、なんだかやっぱり世間知らずで自分中心な人だな~って、イラっとすることも。

あと、〈マジカル◯◯〉のことが、ちょっとね。引っかかっちゃうんですよねぇ。
確かに、ご都合キャラ的なステレオタイプ、ついそれに乗って演じてしまうというかそれに沿ってしまうことって、よくあるけど、あんまりいいことじゃないのかなっていう気はするんですけどね。
ただ、どうも私はまだまだ古いタイプの人間なのか、「別にそれでもいいじゃん」「そういうものが求められて、稼げるならそれでもいいじゃん」とか思っちゃうんですよねぇ。
自分を強く曲げてまでそれに沿うわけではなくて、「私は召使いじゃない!」って思うこともあるから、強くは主張できないんですけど。
考え甘いかもしれないんですが、〈どっちもアリ〉で〈都合よく使い分けたらいい〉んじゃないかと。そうやって、世の中渡っていくのも、自己を確立していく一つの手段じゃないかなって思いました。

ラストで〈ハリウッドのオーディションで選ばれたのは、付き添ってきた認知症の陽子だった〉となったのにはビックリしましたが、それに素直に嫉妬して、撮影現場で迷惑をかけて出禁になったり、それでもめげずにスタジオ内のコーヒーショップで働きだしたりという正子のバイタリティに、素直に「この人の欲ってすげぇ(笑)」と感心しちゃいました。
正直、正子のやり方はかなり粗削りで人に迷惑をかけることをあまり考慮に入れてない、自分勝手さがあるんですけど、その結果を自分で引き受ける強さは、すごいなって思います。多分、私に同じことが出来るかというと、難しい気がします。
でも、逆に「私は私、正子は正子、私は私の欲の開放の仕方がある」って気付けました。

誰かにとって都合の良い存在である〈マジカル◯◯〉、私も演じちゃってるかもなぁ。そして、誰かにそれを押し付けちゃってるかも。
物語的には〈それを許容する戦略もあり〉という私の結論は違うのかもしれないんですが、そういう事に気づけてよかったと思いました。

(2022.11.24 読了)

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この記事へのコメント

  • 苗坊

    こんばんは~
    おばあちゃんが主人公ということで一体どんな作品なのだろうと思いましたが、ぶっ飛んでましたね(笑)
    こんなぶっ飛んだ人がよく50年くらいひっそりと生きていられたなと思いました^m^
    全然共感できないし、人を巻き込みすぎるし、絶対友達にしたくはないタイプの人でしたが、だからか面白くて読む手が止まらなかったです。
    ラストは予想外過ぎる展開でしたが、この人はちょっと思うようにいかない方が燃えるタイプな気がするので、このまま情熱をもって突き進んで生きていってほしいなと思いました。褒めてはいません(笑)
    2022年11月27日 19:23
  • 水無月・R

    苗坊さん、ありがとうございます(^^)。
    苗坊さんの「褒めてはいません(笑)」が非常にツボって、爆笑しました。激しく、共感です(笑)。
    ホント、この人のこの欲の強さ(良くも悪くも)、50年間ひっそり生きてきたとは信じられないですよね~!
    あのガッツで、ハリウッドでも成功するかもしれませんね。脱マジカル◯◯なシニア俳優として。
    2022年11月27日 20:13