『烏の緑羽』/阿部智里 ◎

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阿部智里さんの〈八咫烏世界〉シリーズの第2部3冊目、外伝も含めると通算でなんと11冊目。
私にとって、長く読み続けてきて、本当に思い入れのある作品です。
『烏の緑羽』で描かれるのは、奈月彦の金鳥即位後から崩御の時まで。
主人公は、・・・誰と考えたらいいんだろう。
最初は主人公は路近か翠寛かと思ってたんですが、どちらかというと長束・路近・翠寛・清賢の群像劇であり、奈月彦崩御の折の浜木綿(紫苑の宮)側の決定のへと続く物語でした。

いやぁ、路近って、サイコパスだわ・・・。まさか、八咫烏世界でサイコパスに出会うとは思わなんだわ・・。
その路近を理解できないと悩む長束は、清賢に相談すればいいと奈月彦に勧められ、清賢と面会した際にはかつて雪哉と対立した末に下野した翠寛を推挙され・・・。
なかなか会ってくれなかった翠寛は、清賢からの書簡を見てがっくりと項垂れて、長束に仕えることを承諾したのであった。

一転して、過去。
勁草院(山内衆の養成学校)に入峰した路近、その側勤めをする翠(後の翠寛)、院士(勁草院の教員)となった清賢の日々が語られる。路近のサイコパス無双が繰り広げられ、翠に同情を禁じえないことが続く中、地下街に囚われた路近、そこに駆けつけた翠と清賢、その結末。
そののち、翠は出家して翠寛と名を改め院士となり、路近は長束に仕えることを決める。

しかし、清賢からの書簡に書かれていた内容・・・(笑)。
『長束様は赤ん坊です。あなたが育てて差し上げなさい。』って・・・。
いや、たしかにね、長束は宗家の長子で育ちが良く鷹揚で、下世話な苦労はあまりしてないんだけど・・・(笑)。
まあ、翠寛の育て方が功を奏したのか、のちのちは奈月彦を支え、真の金鳥崩御後の混乱する山内に踏みとどまり、そして紫苑の宮の密かな後見としてこの物語の終章を迎えたのですから、素晴らしい成長だったんですよねぇ。
穏やかに老成しているかと思っていた長束の、こういう側面を知ることが出来て、良かったです。
そしてそれを支えたり指導したり煽ったり不安にさせたりする者たちがいたという複雑な人間関係の妙、阿部さんの中にある〈八咫烏世界〉の確かさに、酔いしれました。

読み終えて、「奈月彦、どうしてこんなに早くいなくなっちゃったんだよ・・・」「真の金鳥を欠いた山内の今後は、どうなってしまうんだろう」、そんな事ばかり考えて、切なくて仕方なかったです。
前作『追憶の烏』でも、彼らが袂を分かたざるを得なかったことが悲しくて、切なくて、なんとか彼らの思いが融合する日がきて欲しいものだと、強く、強く願ってしまいました。いち読者としての願望ですが。
いずれ訪れることが決まっている山内崩壊のその時、山内はどうなっているのでしょうか。人間界に吸収されるのか、山神の力が復活して再び結界で人間界との隔たりが出来るのか(かなり難しいと思います)、混乱のうちにすべてが崩れ去ってしまうのか。
どちらにしろ、相当な困難が八咫烏たちを襲うのでしょう。それを思うと、小説というフィクションの世界のことなのに、辛くなりました。
大団円のハッピーエンドは、望めないのでしょう。それでも、雪哉を始めとする今までのメイン登場人物たちが、少しでも救われる未来になって欲しいです。

(2022.12.09 読了)

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水無月・Rの〈八咫烏世界シリーズ〉記事
『烏の緑羽』 ◎(本稿)



この記事へのコメント

  • 苗坊

    こんばんは。
    読むのが辛いと思いつつ、読み始めると面白くてあっという間に読んでしまいました。
    前作から時系列で言うとあまり進んでいるわけではありませんが、奈月彦や長束の周りの人たちのことがちゃんとわかって良かったと思いました。特に翠の人生は壮絶すぎましたね…。
    路近はマジでサイコパスでしたね…^^;怖い。でもその路近を平気で殺そうとする家族も相当なサイコパスですよね…。
    最後、時間が経ってほんの少しだけ希望が見える終わり方だったので、どうかみんなが少しでも救われますようにと思って読み終えました。
    2023年01月08日 23:10
  • 水無月・R

    苗坊さん、ありがとうございます(^^)。
    新しい世代が新たなる希望を紡いでくれるのではないか、という終わり方であったことで、少し期待しています。
    どうか、彼らの日々に少しでも光が差してほしいと、願ってやみません。
    2023年01月09日 19:20