本作『走る赤 ~中国女性SF作家アンソロジー~』は「中国」とか「女性SF作家」という点にはあまり注意を払わず、「アンソロジーということは、様々な作家さんの、それぞれ違うジャンル・構成・文体などを楽しめるかな?短編だし気軽に読めそう!」という気持ちで、手に取りました。どこかの書評で紹介されてたときに、面白そうかな~と思ったもので。
中国側の編者・武甜静さんは、中国のSFメディアケンエージェンシー〈未来事務管理局〉というところに所属される方・・・ってごめんなさい、どういうことだか理解してません(笑)。
日本側の編者は、橋本輝幸さんと大恵和美さん。どちらも存じ上げてませんでした・・・すみません。
と、いうわけで、〈SFのサイエンス部分についていけてない完璧文系人間・水無月・R〉がこういうアンソロジーを読むとどうなるか、というのがこのレビューになりますので、SF好きな方、中国の女性作家の動向や作品についてのレビューを求められる方、どうぞここでこのブログを閉じちゃってください。
全14編読み切って、まずの感想。
・・・やっぱりサイエンス難しいわぁ(笑)。
です。はい。
・・・いや、正直に言うと、サイエンスだけじゃなく、〈言語学の発展〉とか〈思考意識の拡大〉などの、わりと文系方面もかなり厳しかったです。面白かったけど、理解が薄いというかなんというか・・・。
それでは、タイトルと著者名(漢字変換が難しかったので、全部カタカナ表記にしてます)と一言を。
「独り旅」/シアジァ(立原透耶訳)
独り、宇宙の思い出の地を訪旅を続ける老人。
「珞珈」/リャンリン(山河多々訳)
ブラックホールを塞ぐため、自らを抛った男の回想と、向こう側へのちょっとした干渉。
「木魂」/フェイシャオ(大恵和美訳)
宇宙から飛来した異星人に仕えた女性の献身。
「夢食い獏少年の夏」/チョンジンポー(浅田雅美訳)
友人を亡くした大学生の、悲しみの夢を食べる獏。
「走る赤」/スーワンウェン(立原透耶訳)
ゲーム内で働く少女のエラーを救うために、ゲーム民が協力する。
「メビウス時空」/グーシー(大久保洋子訳)
失敗を取り戻そうとすると、結局はそこへ回ってくることになる。
「遥か彼方」/noc(山河多々訳)
不思議な超短編がいくつも。浮遊感が半端ない。
「祖母の家の夏」/ハオジンファン(櫻庭ゆみ子訳)
祖母の実験は、何がどうあっても大丈夫。選択できるものは、過去なのだ。
「完璧な破れ」/ジョウウェンョン(浅田雅美訳)
完璧な言語は、すべての人に共感を与える。
「無定西行記」/タンフェイ(大恵和美訳)
北京からペテルブルクへの旅。ペテルブルクから北京への旅。
「ヤマネコ学派」/シュアンチーム―(大久保洋子訳)
自然科学研究結社・ヤマネコ学派。全ての学究は優美なヤマネコに見守られている。
「語膜」/ワンカンユー(上原かおり訳)
完璧な少数話者言語を翻訳する装置は、個性を失わせる。
「ポスト意識時代」/スーミン(池田智恵訳)
意識をが加速する世界。それは良いことなの?
「世界に彩りを」/ムーミン(浅田雅美訳)
世界認識は、人それぞれなのでは。障害を補正してもなお。
ジャンルというか対象が色々違う発展の世界を描いていて、面白かったのですが、ホントにサイエンスというか知識への理解が難しかったので、途中ちょっと挫けそうになりました(笑)。
一番好きなのは、表題の「走る赤」。わかりやすかった(笑)。
ゲーム内で働く少女・朱盈がバグ感染し、「紅包」(お年玉アイテム)になってしまったため、ゲームプレイヤーに引き抜かれないために走り続け、彼女を助けるためにプレイヤーたちが協力して周りの障害を取り除く、スピード感ある展開。ゲーム運営たちやプレイヤーたちの意気込みが、ネット民ぽくてなんとも楽しい。
「木魂」の叙情的な感じも、良かった。徳川家に、婚姻という形で留め置かれた異星人。世の中が落ち着かぬことを、彼らのせいにした人々は、式典の際に彼女やその同胞を襲う。ずっと彼女に仕えてきた侍女・素子は、彼女の身代わりを買って出て、殺されてしまう。素子の体を抱いて、木魂もまた命を失わんとしていく。その過程で、肉体を脱ぎ捨て、脳を脱ぎ捨て、無になっていった。木魂は、不幸であったけれど、素子への「想い」を持つことで温かな日々を過ごし、そして命を失う過程で、自由になれたのではないかと思います。
辛さの中に、少しの温かさを得ることが出来、それを増幅して生きていた木魂の、自由へ解き放たれるその過程で一つ一つ描かれる素子とのエピソードの優しく美しいイメージが素晴らしかったです。
SFというジャンルで描かれる発展した世界は、今私が暮らしている現代からテクノロジーが発達したものだけじゃなく、言語や思考が発展していったり、人間がそれに振り回されたり、強制的にコントロールされたり、ちょっと怖いな・・という物語もありました。
どっちかというと、科学が発展しても人間は人間でありたいと思ってしまうような私には、ちょっと苦手な分野もありました。
でも、ふっと笑ってしまったり、ニヤニヤしてしまったり、美しさに胸が温まったり、まだ私が入っていっても大丈夫かな?という世界もあったので、安心しました。
全体的に難しかったのは否めませんが、年の一番初めにこういうアンソロジーを読めて、良かったです。
「理解できないこともあるけど、いろいろな物語を知っていこう」「難しい中でも、物語の中で自分に響く部分を見つけたい」そんなふうに思いました。
(2022.01.05 読了)
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