〈異世界に行ったことがある〉子供たちが暮らす寄宿学、「エリノア・ウェストの迷える青少年のための学校(ホーム)」。
ショーニン・マグワイアさんが登場人物たちを連れて行ったのは、1作目でナンシーが帰還した「死者の殿堂」と、パン作りが世界を作っている「菓子の国」。
1作めで死んでしまったスミを取り戻すために、少年少女は〈自分の世界〉ではない「死者の殿堂」と「菓子の国」で活劇を繰り広げます。
空から落ちて来たリニは、スミの娘だと主張する。
「菓子の国」でスミは支配者を打倒し、幸福な結婚をし、リニを生んだのだという。
だが、スミが〈現実世界〉で少女のうちに殺されてしまったため、リニの存在は消失し始めていた。
リニを救うため、ケイド・クリストファー・ナディア・コーラは、スミの遺体(骸骨)を回収し(クリストファーの骨笛で呼び出した)、ナンシーが帰還した「死者の殿堂」に乗り込む。
ナンシーの手を借りてスニの魂を取り戻した一行は、その代償に「死者の殿堂」と隣り合わせている「沈んだ国」に戻れる可能性を期待したナディアを置いて、今度は「菓子の国」へ行き、現支配者・ケーキの女王に捕まってしまう。
コーラの機転により、取り上げられたクリストファーの骨笛を奪還し女王を捕縛した彼らは、スミの肉体と心を取り戻すために、「菓子の国」を代々構成しているパン作り職人の元を訪れる。
現パン作り職人である少女・レイラは、スミの骨にお菓子の材料で肉付けしオーブンで焼き上げ、目覚めさせた。
少女であるスミはケイドたちとともに〈現実世界〉へ帰っていく。
なお、「死者の殿堂」に取り残されたナディアは、エピローグで「沈んだ国」に続くと思われる扉と出会い、旅立っていった。
学校のリーダーでもあり、異世界の分類「ロジック・ナンセンス・高貴さ・邪悪さ」の規定に長けているケイド、死者の骨を踊らせることが出来るクリストファー、水に親和性の高いナディアとコーラ、というメンバー構成が、絶妙ですよね。
更に言えば、コーラは遺伝と代謝の問題からふくよかな体型で、外見だけで判断する人間には「怠惰」「自制がない」と思われてしまうのだけど、それを利用してケーキの女王を油断させることに成功。
年若い彼らが、窮地をくぐり抜けるために自分たちの本領を発揮して行く様子は、本当にワクワクしました。
私は結構食いしん坊で甘いものも大好きなんですが、さすがに「菓子の国」はキツイかな(笑)。
建物などがお菓子で出来てるところまではいいとして、地面はブラウンシュガーやケーキの屑で、海はピンクのソーダってことになると、ちょっとベトベトしすぎな気が(笑)。
まあ、いわゆる「現実世界の常識」に当てはめちゃ、ダメなんでしょうけどね~。
逆に「死者の殿堂」は、彫像のように動かないで死者の女王に仕える、という存在の仕方は私に向いてないと思うんですが、あの世界のあり方は普通に受け入れられそうです。
いろいろな世界があり、その世界が自分にしっくり馴染むという子供たちが居るのは、なんだかすごいことだなぁと、変なことに感心してしまいました。
基本的に彼らが〈自分の世界〉と言う時は、〈自分が行ってきた異世界〉を指しているんですよね。〈現実世界〉ではなく。
そして、それはそれぞれが違った世界で、隣り合わせていたりもする。
そこで成長し帰属意識を持った末に、〈現実世界〉へ送り返されてしまった彼らは、いつか〈自分の世界に戻りたい〉と思ってる。
本作では〈以前に世界に帰っていた〉ナンシー、〈未来になったら帰って〉子供ができたスミ、〈帰れそうな扉と出会った〉ナディア、と3人の帰還が描かれました。
〈自分の世界〉に戻りたい子供たちに〈戻れる可能性〉を広げたラストに、ちょっと安心しました。彼らに〈我々の現実世界〉へ適合してもらいたい気持ちも多少あるものの(そうすることで、我々の現実世界も広がりを持てる気がするから)、彼らの幸せはきっと〈彼ら自身の世界〉にあるのだろうから。
今作で3部作の完結と冒頭に書きましたが、あとがきにて4作目・5作目がすでに描かれているという紹介が。
続編ではなく、半世紀ほど遡った時代のエピソードだそうですが、それでも楽しみですね。ぜひ日本でも、出版されてほしいなぁ。
(2023.01.11 読了)
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