『魔性〈闇の西洋絵画史(2)〉』/山田五郎 ◎

闇の西洋絵画史魔性.png
You Tube「山田五郎 オトナの教養講座」で、面白くて絵画鑑賞初心者にもよく分かる解説をされている山田五郎さん。本書『魔性〈闇の西洋絵画史(2)〉』は、全10冊からなる〈闇の西洋絵画史〉シリーズの2冊目です。
〈魔性(ファム・ファタル=宿命の女)〉って、なんだか魅力的ですよねぇ。いや、私、女性ですけどね。絶対的に、私に欠けてるものなんで(笑)。

まず、「はじめに」で、~~魔性の女の正体は、男の他力本願な破滅願望と言えるかもしれません~~(本文より引用)とありましたが、私が魔性に惹かれる理由は〈破滅願望〉じゃないよなぁ~と思いながら、読み始めました。

基本的に、魔性の女と言えば、絶世の美女。コケティッシュな魅力をたたえていたり、妖艶さで男性の欲心を鷲掴みにしたり、鋭い視線で他者を支配したり、そうかと思えばあどけない笑みの裏でとてつもない計算をしてのけたり。
複雑な人間性は、人間の〈相手を知りたい〉という欲望を刺激するのかもしれないですよねぇ。

有名どころで言えばサロメ・イヴ・クレオパトラ、それからセイレーンやニンフなどの種族等が挙げられていますが、私が注目したのは巻末に挙げられた、エリザベス・シダルとジェーン・モリス。どちらも、画学生たちのモデルとしてもてはやされた末に〈ファム・ファタル〉に祭り上げられ、様々な絵画でそのテーマの主役を演じています。
エリザベス・シダルがモデルを勤めたロセッティが描いた《ベアタ・ベアトリクス》の表情には、平穏な天国にいる女性であるはずなのにやるせなさを湛えてるように見えますね。
逆にジェーン・モリスの眼力の強さは、凄みを感じます。こんな目で見つめられたら、グラッとしてしまいそう。
実在の女性が、ファム・ファタルとして絵画の中でモデルとなった画題を越えて、〈生命力〉を届けてくるような気がしました。

「聖書の魔性の女」「神話の魔性の女」「実在の魔性の女」と分類し、たくさんの「魔性」を紹介している本書ですが、私が一番「美女だなぁ!」と思ったのは、ロセッティが描いた《レディ・リリス》。
乳白色のしっとりとして吸い付きそうな艶肌に、輝く亜麻色の長い髪、アンニュイな表情で気怠げに髪を梳かす姿は、女性からみてもため息が出そうなほど美しい。ちなみに画題のリリスとは、アダムの最初の妻(子供を成さなかった夜の魔女)だそうです。
・・・え?アダムってイヴを娶る前に、バツイチついてたのか(笑)。

クラーナハ(父)の工房では「魔性の女が量産」されていたとか、ニンフが大勢描かれる手前でドン引きしてる牧羊神をして「女子校の文化祭に放り込まれた男の恐怖」と題するとか、相変わらず五郎さんの言葉選びのセンスが素晴らしくて、ニヤニヤしちゃいましたね。
それ以外も、英雄ヘラクレスを女装させたりして弄んだ女王様、若く美しい女性とエロ爺(何故か必ず鷲鼻)との対比で「盛者必衰(メメント・モリ)」を寓意する《不釣り合いなカップル》など、西洋絵画における「魔性の女性の勁さ」をつくづく感じましたね。年齢も立場も関係ないんですわ(笑)。

読み終えて思ったのが、私がファム・ファタルに惹かれるのは、「自分が破滅したいわけでも破滅させたいわけでもなく、〈破滅していくさまを鑑賞したいという野次馬根性〉なのかもしれない・・・ってことです。・・・うわぁ、マジか~(笑)。
私の〈物語好き〉という特性が遺憾なく発揮されている、といえば聞こえはいいんですけどねぇ(笑)。
でも、仕方ない。だってそうなんだもん。願わくば、その主役は美しく迫力のある美女であってほしい(私には無理だから尚のこと)、ということで『魔性』に心惹かれるのでしょう。

さて、このアルケミスト双書シリーズの次は『怪物』。コレもまた、面白そうですよね!楽しみです。

(2023.01.25 読了)


この記事へのコメント