とある県税事務所の職員たちの物語。
『きみはだれかのどうでもいい人』というタイトルの強烈さと投げやりさにちょっと慄きながら、読み始めました。
そして、読んでいて、だいぶ辛かったです。
伊藤朱里さん、初めて読む作家さんでしたが、他の作品はどんな感じなんでしょうね。
納税部門の初動担当である、中沢環。
納税部門の事務パート職員の田邊陽子。
総務担当の染川裕未。
裕未の上司である主任の堀。
彼女らが、仕事や私生活でうまく回らない日常を過ごしている様子が、つぶさに描かれていく。
彼女たちのままならなさを象徴するかのような、〈社会復帰支援雇用〉の須藤美雪。
美雪は納税部門の事務アルバイトをしているのだけれど、仕事は控えめに言っても「できない」上、常におどおどしているため、周囲から〈扱いづらい困った人〉となっている。
日々のストレスと、美雪に対する苛立ち(でも心の病気である人に対してきつく当たることはできないという状況が更にストレスになる)で、追い詰められた彼女たちは、ちょっとした一言をトゲを含ませて美雪に対して放つ。
そして、出勤しなくなった美雪が「記憶喪失」になった、と家族からの訴えがあり、事務所では聞き取り調査が始まる。
そこで「私が彼女を罵りました」と告白したのは、堀であった。
堀の告白は、「どうせ誰かを加害者にしなければいけないなら、自分が泥をかぶった方がいい」という思考のもとにされたものだと思ってたのですが、実は違って本当に彼女が言ったことだと判明したときには、ちょっとショックでした。
堀みたいな冷静なタイプは、そんなことを言わないと思ってたので・・・。
美雪が所持していた録音機器に残されていた、いくつもの言葉。それを削除した堀。
記憶を失ったまま、「忘れ物」を取りに来た美雪。手渡された「忘れ物」の中の録音機を再生して「何も入っていない」と微笑んだ美雪。
結局、このラストは、どういうことだったのでしょうか?
本当に録音機には、何も入っていなかったのか。
美雪の微笑みの意味は。
美雪を見送った堀の「祈り」は、どこへ届いたのか。
今から書くことは、正直、酷いことなのかもしれないのですが・・・・。
文庫解説で島本理生さんが「須藤美雪だけは、誰に対しても、加害者にならない」と書いていたけど、私は〈復帰支援雇用〉であり責めたりしてはいけない人ではあるけれど、〈仕事が回らない〉〈気を使わなければならない〉という意味では「加害」とまでは言えないけど、美雪の存在は「重荷」にはなってたと思います。
環も裕未も陽子も堀も、もちろん美雪も、皆どうにもならない現状に苦しんでいて、解決が見つからないのが、辛かったです。
どうにも、気重な読後感でした。
(2023.01.30 読了)
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