『夜の向こうの蛹たち』/近藤史恵 ◎

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近藤史恵さんの作品は、今まで〈サクリファイス〉シリーズしか読んだことがなかったのですが、この『夜の向こうの蛹たち』には非常に驚かされました。不穏な展開、女性であることの息苦しさ、絡まり合う愛憎劇、作家の業・・・、一気に引き込まれ、すごいスピードで読み進めてしまいました。
とても面白かったです。

著名な小説家・織部妙は、編集者に「橋本さなぎと美人作家対談しませんか」と言われ、「そういう名目では対談しない」と断る。後日、文学賞のパーティーで橋本さなぎと知り合い、憧れを告げられる。その場で見かけた織部にとって魅力的な女性・初芝祐は、橋本の秘書だという。
しばらくして、橋本絡みではありながらも初芝の連絡先を得た織部のもとに、「相談したいことがある」と初芝が連絡をしてきた。何度か会ううちに、初芝と橋本の小説教室時代の同人誌を手に入れていた織部は、橋本さなぎ名義で書いているのは初芝ではないのかと疑いを持つようになる・・・。

織部が橋本さなぎと初芝の関係を疑ったきっかけは、なるほど作家らしい着眼点でしたね。
私も織部同様、橋本(速水)と初芝の主従関係が逆であるというのは、思ってもみなかったことでした。
レズビアンである織部の好みと恋愛のあり方の破滅性、初芝のコンプレックスと自負、速水の美しさゆえの弱さと依存性、これらが絶妙なニュアンスを持って絡まり合い、物語を盛り上げていましたねぇ。
なんというか、最後まで息をつかせないというか、目が離せず、この3人の関係性がどうなっていくのか、胸がキリキリ痛むような心地で読んでいました。

速水が悪女のように見え来ていた後半、織部がつい速水にドアを開いてしまった状況を見て「まずいよ!織部、脇が甘すぎる・・・!」と、私が焦ってもしょうがないのに胸が騒いでなりませんでした。
そして、いつの間にか織部のパーソナルスペースに滑り込んだ速水、SNSを利用しておびき寄せられた初芝、崩れた信頼に・・・これはアンハッピーエンドで終わるのか?!とちょっと悲しくなったのですが、そこから初芝の決断が3人の関係性に新たな方向性を与え、それぞれが独立して新たな道を歩み始めるというラストを迎え、清々しい気持ちになりました。
お互いが、依存したり傷つけ合ったりしながらも、己を高めて行ける未来が見えて、安心できました。

速水も、美しさ故に搾取されてきた過去を思えば、完全な悪女ではないのですよね。
織部の部屋に入り込んだ手腕に関しては、凄腕としか言いようがないのですが。
織部の性質もしっかり見極めているという意味では、したたかさと賢さも兼ね備えた強さも持っていたということになるのだと思います。
それでも、依存する。そんな彼女だったので、最後には自立できたのであろう(という織部の推測)というのが、救いでした。

初芝も、「初芝祐」名義での再デビューを果たし、新たに羽ばたけたことは、素晴らしかったです。

織部の作家活動に関しては、あまり描かれることがなかったのですが、織部の作品・橋本さなぎ名義の作品・初芝の作品のそれぞれを読んでみたいなと思いました。
それぞれの違い、私にもわかるかしら・・・なんて、ね。

(2023.02.02 読了)

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この記事へのコメント

  • 苗坊

    こんにちは~。
    私はサクリファイスシリーズは途中で逃げ出した(笑)人です。人間関係が読んでいて辛くなってしまってフェードアウトした記憶が。自分の精神状態が良くなかったのかもしれません^m^久しぶりにタイトルを見たから再開しようかな(笑)
    こちらの作品も読みました。
    妙に初芝にさなぎ。それぞれが生きる道を模索しつつ、幸せに生きていけたら良いなと思いました。
    近藤さんの作品は私も過去作品はそこまで読んでいないのですが好きな作家さんです。現代ものも時代ものもおススメです^^旅ものとか食べ物が出てくるものもありますよ~
    2023年02月04日 15:10
  • 水無月・R

    苗坊さん、ありがとうございます(^^)。
    近藤さん、結構シリーズたくさん出してらっしゃいますよね。ビストロとか、モップの魔女とか・・・。
    なんとなく「サクリファイス」シリーズの求道的な感じとそれらのイメージが合わないのと、追い切れる自身がなくて・・(^_^;)。
    シリーズ外の新作とかを読んでみようかしら。

    初芝の決断が、良かったです。おかげで、3人が泥沼に沈んでいくことなく、それぞれ羽ばたいていけたのだと思います。
    2023年02月04日 19:28