これだから、三津田信三さんの〈『◎◎の如き●●もの』シリーズ〉は、止められないのよ・・・。
本作『忌名の如き贄るもの』(いなのごときにえるもの)も、相変わらず〈土着民俗系ホラーミステリー〉ド直球でしたわ~。
おどろおどろしい、奇妙な儀式。儀式の最中に失われた命。村に出没する、怪しい存在。妙に口重い、村人たち。
様々な証言や事実から、言耶が推理を二転三転させる場での、緊張感。
ラストまで気が抜けないことは予測できていたのに、それでも物語最後にゾッとさせられました。
大学の先輩・発条福太の依頼で、福太の婚約者・李千子の実家に伝わる年齢通過儀式について解説をするために発条家を訪れた言耶は、李千子の弟の市糸郎の葬儀に参加する李千子・福太・福太の母の香月子に同行することになる。
葬儀の場に現れた刑事に請われ、捜査に協力することになった言耶は調査を始めるのだが、村人たちの様子に微妙な違和感を覚え、情報もなかなか集まらないことから、苦戦する・・・
上手く物語を要約できない・・・。
色々なことが起こるし、村の空気はおどろおどろしいし、相変わらず言耶の推理は二転三転するし(それなりに根拠があるものだから、読んでてつい惑わされる・・)。
ので、例によって要約は放棄します。
今回、祖父江偲は最初にちょっと登場しただけでしたね~。
まあ、いると少々うるさいので、今回の事件の雰囲気的には、不参加でよかったと思います。
関係者を集めての言耶の推理展開は、毎度のことながら「容疑者とその動機」を列挙していくスタイルで、つい「真相はそういうことか?!」「じゃなくて、そっちか!!」と振り回されました。
容疑者が、李千子の兄・三市郎→妹・井津子→祖母・瑞子→母・狛子→父・太市とその愛人・縫衣子→隣村の住人・鍛冶本→祖父・件淙→8年間土石流で埋まっていた蔵に潜んでいた銀鏡家(村一番の有力一族)の秖作・・・と、とにかくぐるぐる変わっていく。
しかも、振り回された末に出て来た「真相らしきもの」は、祇作が8年間埋まった蔵の中で倉の食糧で生を繋ぎ、狂気を拗らせた末に、地表への出口が現れたタイミングで市糸郎を殺した・・・と。
えぇ~、そんな偶然が重なって、こんなことになる?と疑ってたんですが、推理中に何と「蔵」に繋がる穴のようなものまで発見されては、そうなのかな~なんて、物語が終わる方向に納得しかけていたわけですが・・・。
最後の最後に、結婚した福太と李千子の家を訪問した言耶の〈再度の推理〉には、度肝を抜かれました。
まさかこの一連の事件が、〈尼耳家がじつは村八分の家であった〉ことを隠すために李千子が画策したものであった・・・だなんて!!
確かに、村人たちの尼耳家への態度には、おかしなものを感じられたし、尼耳家が雨乞い儀式を執り行う家系であることから敬遠されている風に描かれている場面は多々あったけど!
そんなことのために、弟を殺したと・・・狂っているとしか思えない。
しかも、家から失踪する際に吐いたセリフが「私は李千子やのうて、生名子(李千子の忌名)ですから・・・」と。
怪奇現象的が、一欠片だけ残される、ゾッとするラストでしたね。
しかしながら、全編を通して福太の粗忽さというか配慮の足りなさには、イライラさせられました。
そりゃ母親の香月子に、頼りないだのなんだの言われるはずですわ。
ラストでも、あんなに色々苦労を重ねた末に結婚までした李千子に対して、言耶の推理を聞いただけで李千子の話を聞くこともなく拒否の行動を取る・・・、かなり酷い態度だと思いますね。
しかも、李千子が失踪し離婚が成立したあと、即井津子と結婚。・・・ちょっとまて。色々おかしいだろう?
そんなだから、新婚家庭の窓に李千子らしき顔が張り付いたりするんだよ!!
ラストには、かなり嫌悪を感じてしまいましたが(真相及び福太の誠意の無さで)、物語全体としては、相変わらず〈土着民俗系ホラーミステリー〉の王道をガッツリ踏襲していて、惹き込まれましたね。
まだまだ言耶には、様々な土着民俗に絡まる怪異事件に巻き込まれてほしいものです。
(2023.11.04 読了)
水無月・Rの『◎◎の如き●●もの』シリーズ記事
『忌名の如き贄るもの』 (本稿)
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