芥川賞作家の又吉直樹さんと絵本作家のヨシタケシンスケさんコラボレーション、〈本〉にまつわる物語がたくさん詰め込まれた『その本は』。
本好きの王様から、〈世界中を旅して、『めずらしい本』について知っている者からその本についての話を聞き出してきて、教えてほしい〉という依頼を受けて、二人の男が語る、たくさんの〈本〉についての物語。
13夜にわたり、男たちは交互に〈めずらしい本の話〉を語り尽くす。
短くて一夜にいくつも語られるときもあれば、長い物語を一つだけ語る夜もあり、可愛らしい物語も、ゾワゾワするような物語も、悲しくなるような物語も、ナンセンスな物語も、全ての物語は「その本は」という語り出しで始められる。
〈めずらしい話〉ではなく、〈めずらしい本の話〉であるところが、ミソ。
〈その本〉そのものの話も、〈その本〉に書かれていることについての話も、そして〈その本〉に人格のようなものがある話も、全ては二人の男の語りによってのみ、明らかになるのだから。
なんて書いてると、真面目に〈物語〉を蒐集してきたような感じがしますが、とんでもない(笑)オチがあります。
でも、なんか、そのオチが良いのですね。
思わず「ですよね~(^_^;)」って、口に出しちゃいましたもん。
そのオチあってこそ、この2人に語らせた意味がある気がする(笑)。
人気お笑い芸人の又吉さん、ナンセンス絵本で有名なヨシタケさん、この二人を組ませた王様が、ぬかったのですよ(笑)。
あ、でも二人は王命を受けたあと、「こうしましょう」って談合したのかしら。
せずに、二人揃ってこのオチに持ってきたんだとしたら、逆に王様のセンスが素晴らしかったと言えるんじゃないかと・・・(笑)。
「第◯夜」と各章の扉に描かれる、又吉氏(仮名)とヨシタケ氏(仮名)のイラストが、同じ表情でとぼけた感じに身振り手振りをしてるんだけど、微妙に猫背でちんまりと座ってる感じが可笑しくて、ニヤニヤしちゃいますね。
又吉氏の章では、便箋みたいな罫線の用紙の端っこに走り書きがあったり、飲み物の水滴がついちゃったような輪っかが残ってたり、指紋の汚れや焼け焦げがあったり。
ヨシタケ氏の章では、いい塩梅にイラストと文章が構成されていて、どちらもユーモアたっぷりで自然と笑ってしまう。
本全体の構成というのかな、非常に凝っていますね。
表紙の緑地に白抜きでタイトル・著者名があり、王様のお城が金線で描かれてるのも、上品で重厚な感じがして、内容を思うと笑っちゃうし。
その内容といえば、本当に様々。
ナンセンスで、短すぎて「えっ?」って思ってしまうものもあるし、切なさがあふれるものもあるし。
私が一番好きだったのは、「第八夜」でヨシタケ氏が語った「私の顔写真が表紙になっていて、個人情報も、誰も知らないはずの秘密も全部書いてある本」の話。本屋さんにそんなものがあったら、その時点で「ぎゃー!」ってなるけど、もっと怖いのは、3か月後「何の変化も起きなかった」ことですよ!いやぁ!怖い!怖いよ!!
それから「第3夜」で又吉氏が語った「その本は、かなり大きな声で笑うので真夜中は冷蔵庫で冷やしています。」という、たった2行の話。
本が笑うのは、まあいいですよ?(笑)「冷やすのは、真夜中だけでいいのか?」「ていうか、冷やすと笑わなくなるのか?それとも笑い声の大きさの問題なのか?」というようなツッコミを延々と入れたくなりません?私だけ?(笑)
とにかく様々な「その本」についての物語が語られ、王様の死後これらの物語は1冊の本になり、その後とんでもないスクープがあり、2人が「最後に言いたいことはあるか?」と聞かれて、口をそろえて「その本は・・・」と言ったところで、この本は終わりを告げます。
さてさて、又吉氏とヨシタケ氏は、何を言ったのでしょうね(笑)。
(2023.11.27 読了)
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