・・・海外作品って、登場人物の名前がカタカナで覚えにくいんだよなぁ(笑)。
更に、本作『あの本は読まれているか』は、登場人物の数が多い上に、ソビエト側の人物の名前が馴染みがなくて覚えにくい。
そんな部分で、非常に苦戦しました(笑)。
しかも、私『ドクトル・ジバゴ』を読んだことないし、映画も見たことない・・・それでも、問題なく読めましたが。
本作がデビュー作にして、出版契約金200万ドル(約2億円)というラーラ・スコットさん。
あの時代かの国々の市井に生きる人々の様子が丁寧に描かれ、彼らが時代や体制や社会的偏見に翻弄されるさまを読んでいると、息が苦しくなりそうでした。
米ソ冷戦中、アメリカCIAの女性タイピストたちはあらゆる作戦の背後にありながら、地位は低かった。
その中には、「特別な任務」に着く者がいることもあった。
ソビエトでは、著名な作家・パステルナークを支え続ける女性・オリガが、強制収容所に収監・解放されてもなお、彼の作品を国内で出版するために奔走する。
パステルナークが原稿を海外出版社に渡したことから、彼やオリガたちへの弾圧が度を強めていく。
一つの物語がソビエトの体制を揺るがす武器としてCIAに選ばれ、その作戦のために奔走した人々を描く。
第2次世界対戦中アメリカの諜報機関で活躍した女性であっても、平時ともなればタイピストとして地位の低さに甘んじなければならなかったこと。そのタイピストですら、職があるだけマシであったこと。
また、ソビエト共産主義社会にあっては、国家の意思に逸れるものを管理するために関係者を収監し、作品は出版できず、日常を監視されること。
女性蔑視、性的マイノリティーへの迫害、それでもひたすらに己の能力を磨き生き抜いてきた彼女たちには、胸が熱くなりました。
ただ・・・、前評判と断片的な情報から、もっと冒険活劇的なスパイ物を想像していたので、「思ってたのとちょっと違う・・」と感じてしまったのと、前述の〈登場人物多い・名前が覚えられない案件(←単に私の能力値の低さとも言える)〉があり、更に言うと「東」「西」の章の中でも節ごとに視点が変わることなど、面白いんだけど頭がついていかなったのが、残念。
ですが、〈ソビエト文学を一般市民に体制に疑問や反発を抱かせるための武器にする〉という作戦が本当にCIAによって行われていたこと、実際の文学『ドクトル・ジバゴ』がどのように出版されないながらも市井に流布し、その評判から国外での出版がなされたこと、そのせいで作者・パステルナークだけでなくその愛人・オリガすらも体制の監視下に置かれたことなど、史実を描きつつ様々なフィクションを加えたことで、本作はとても魅力的な物語となったと思います。
しかしまあ、パステルナークって・・・、酷い男だなぁと思いますわ。
妻と愛人両方に頼った生活、家族や愛人家族を危険に晒すとわかっていても作品を海外に渡してしまい、そのくせ中途半端に態度を変転させたりする。
それでも、作家として支えたくなるような魅力があったんですかねぇ。
そんなわけで「東」の章はちょっと、私としては読んでてイライラするというか、ため息を付きたくなるような展開が多かったです。
逆に「西」の章でのタイピストたちのシスターフッドや、イリーナやサリーのスパイ活動などは、ワクワクしました。抑圧されている彼女たちの、真の能力があってこその〈ドクトル・ジバゴ作戦〉の成功となったのでしょう。
サリーの退場には心が痛みましたが、ラストでタイピストたちが目にしたニュースの「これって、あのふたり?」に、全てが昇華された気がします。
タイピストたちが願うように、私もそうであることを願ってしまいますね。
(2023.12.23 読了)
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