面白かった!!
結婚詐欺師のこども・高校生の杏と、その結婚詐欺師に騙された女・キヨエの、ロードノベル。
そんな設定からして、面白くないわけがないのですよ。
しかも杏は自他ともに認める美少女、キヨエの方はちょっとも野暮ったさがあるものの育ちが良くてお人好し、そんな二人がポンポン言い合いながら旅を続け、途中車を失っても目的地にたどり着くんだから、達成感もありますしね。
やってくれますな、佐原ひかりさん!!なかなかに、爽快でしたよ『ペーパー・リリイ』。
表紙イラストの杏とキヨエで、ずっとイメージしながら読んでました。
猫っぽいツリ目の二人が手を繋いで、颯爽と駆け抜けながら、いくつものアクシデントに出会う。カッコいい!
目的地の〈幻の百合〉が、異界に咲いていたっていうのも、すごく良かったですね。
ずっとリアルな旅を続けて来た彼女たちが、ふと現実から逸れてやっと目的にめぐり逢い、そして解散する。
そして、家に戻った杏は、詐欺師の叔父・京ちゃんから「キヨエって誰?」と言われるのだ。
ひょえぇぇぇ!!!マジか、そこにそんな大逆転(笑)要素があったなんて!
エモいとか言ってらんない(笑)。
キヨエこと本名トモコ、騙した額は300万じゃなくて100万、『貰えるもんは貰っとけ』。
いやいや、親に大事にされすぎてて野暮ったくて、結婚詐欺師に騙されちゃうようなもっさりした女だと思ってたら、案外としたたかでした(笑)。
最後に杏が「いつかどこかで再会したら、トモコと、呼びかける」という想像が、とても清々しかったですねぇ。
その時、杏はなんと名乗るか・・・ってあったけど、幻の百合の谷で「野中杏、17歳、詐欺師のこども」と自分を証明しようとした杏が、自分のアイデンティティをそれまでに獲得して、軽やかにそして誇らしげに名乗りを上げられるようになってると思うと、なんだかとても胸が暖かくなりました。
途中、ヒッチハイクで拾ったファンキー婆さん・えなっちゃんに500万を盗まれそうになったり、杏が暴走させて山に突っ込んだ車を捨てて行倒れた二人を拾ってくれた若い男・ヨータがとんでもない金持ちな上に訳ありだったり、そのヨータを撒いて目的地に辿り着いたり、目的の山に入ったはいいけどヤバいものと遭遇したり、ホントに色々なことがある。
なんだかんだ言いながら、要領の良さで切り抜ける杏と、用心深さで回避しようとするキヨエの組み合わせは、結構いいコンビだと思いますね。
「あんた、人を信用しすぎるのはどうかと思うよ」って結婚詐欺に合ったキヨエが言うのもヘンなんだけど、案外杏はそういうところ危うい子なんですよね。
叔父が結婚詐欺師で、女性を騙して泣かせて得たお金で自分は育ったから、バランスを取るために男を騙したり泣かせたり、「返す」ために騙された女・キヨエを癒やす旅に一緒に出かけたり・・なのに、虚しさを感じかけてた杏を引き戻したのは、キヨエの「うどん食べよう!」だった・・・。
うん、いいんだよ、それで。ティーンエイジャーの杏は、そんなにゴニョゴニョ思い悩まなくていい。やりたいこと、どんどん思いついて、やるために色々試行錯誤して、人生楽しんでいっていいのよ。
ひと夏の思い出、叔父が騙した女と旅するなんていうとんでもない経験、しかもその経験が終わってみたら大逆転をかまされてた、なんて・・・面白すぎるでしょ!!
キヨエの方も、貰った500万をどう使うのか、きっと杏から影響を受けて今までの慎重な生き方じゃなくて、自分を大好きになって大胆に軽やかに人生をエンジョイしてくれるんじゃないかな。
物語にならなくていいけど、この2人にはいつか再会して欲しいですね。
そして年齢の離れた友達として、この夏みたいにぽんぽんと言い合いながら、軽やかにしなやかに、いろんなことを楽しんでいって欲しいです。というか、そういう未来があるだろう、って思えてしまうぐらい、彼女たちは魅力的でした。
(2024.04.01 読了)
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